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プロローグ 翌日に聞いた2018年9月3日の話

 うちの中学校の三年二組の小栗君が、つきあっている彼女の飯塚真穂さんから、放課後に一緒に帰ろうと呼び出されたんだ。この二人、つきあいが順調に進んでいて、実は昨日は飯塚さんの部屋に上がり込んだ仲。コトは、なかったらしいけど。だから小栗君は期待に胸膨らませてウキウキだったそうだ。ところが、呼び出したはずの飯塚さんが浮かない様子だったらしい。

「真穂、なんか暗いな」

「見て分かるよね。言うと重たいことなんだけどね」

 飯塚さんはうつむいたままで、小栗君と目を合わせなかったらしい。

「らしくないなあ。重たい話じゃなくて、楽しいこと考えようぜ」

「ごめんなさい。そういう理由で呼び出したんじゃないの」

「だったらなに?」

「私、ずっと考えてたんだけれど…… 私たち、別れよう」

 一瞬、小栗君の時間が止まったという。

 予想していない展開だったと思う。つきあいは順調そのものだと思っていたんだから。

 コンマ数秒ほど考えて、いたずらが過ぎた試し行為だと思ったそうなんだな。

「冗談はやめようぜ。トラブル起こして気を引くような女じゃないだろ」

「気を引く気もないの」

 飯塚さんはやっぱりうつむいたままで、小栗君の顔を見なかったらしい。

「何があったんだよ。真穂の部屋に行って話し合おうか」

 小栗君は軽い気持ちで飯塚さんの両肩をつかみ、力尽くで飯塚さんの顔を自分の方に向けたという。

 そのときに飯塚さんの顔に浮かんでいたのは、恐怖心と嫌悪感。だったそうだ。

「もう、来ないで。なんて言うか、生理的にダメなの」

 飯塚さん、昨日は小栗君を自分の部屋に上げたんだよ。そんな男の子が生理的に合わないだなんて、昨日の態度はなんだったのということになる。おかしい。話が急すぎる。

 そりゃ男としては怒るよね。小栗君は「なんだよ」と飯塚さんを突き飛ばした。

 そして突き飛ばされた飯塚さんは大相撲の力士にぶつかった。

 別に話が飛んでいるわけではない。

 そのすぐそばに、たまたま、力士(序二段らしい)が歩いていて、突き飛ばされた飯塚さんがぶつかったんだ。

 言うまでもないことだけれど、ここは両国じゃない。日本海側の人口20万人に満たない観光資源もない地方都市なんだ。

 9月だよ。もうすぐ大相撲の九月場所だ。力士がこんな日本海側の田舎にいちゃダメでしょ。それがだ、漏れ聞いた噂によると、警察の聴取に対して、酔っ払って電車に乗って気がついたらこの街にいたと答えたという。いったい電車を何本乗り継いだの? それ、酔ってたんじゃなくて記憶喪失でしょ。つうか、おかしいと気づいた時点で、なんで駅から街に出るの?

 そんなことはお構いなしにその場にいた力士は、突き飛ばされた女の子がぶつかったことに怒って(プロが素人相手に怒るなよ)、女の子を突き飛ばした男(つまり小栗君)に張り手を見舞ったんだ(だからそれイカンだろ)。小栗君は当然吹っ飛ばされた。

 なんでこんな事になるのか、全く訳わかんないよね。

 だけど小栗君のスマホのbocketボケットアプリには匿名のボケとして「別れ話で男にビンタをするために力士を連れてくるのってあり?」と届いていたんだ。

 こうなったら、しかたないんだ。


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