山の上のキャンプ場⑨
里沙ちゃんを追って皆のところに戻ると、持田先生の子供を前にして固まっているロンが居た。
先生の子供は初めて見る犬に興味津々でロンの首に抱きついてみたと思えば、口を開けようとしたり、その口の中を覗き込んでみたり、耳を引っ張ったり尻尾を掴まれたり。
普段撫でてもらったりキャーキャー騒がれたりするのと違って、黙々とあっちこっち触られたり覗かれたりして、どう対応していいか分からないで困っている。
私が来たことに気が付いても、ロンはお座りして固まったまま、大きな眼だけを私に向けて助けを求めている。
ロンが話せたなら、屹度こう言うだろう。
「誰か、この子をどこかに連れて行ってくれ」と。
フフン。女の子にのぼせた罰よ!
といっても、やっぱりロンが困っているのは可愛そうだから近寄って子供の相手をする。
相手をしながらでも、子供はやっぱりロンが気になるらしく直ぐにロンのほうに行こうとする。
ロンはロンで、直ぐに逃げれば良いものを自分が急に動いたら男の子が何をするか分からないとばかりに警戒したまま固まっていて、まさに蛇に睨まれたカエル状態。
男の子は私が何を言っても聞こうともしてくれないので、いい加減私も困って来たところ江角君と里沙ちゃんが二人同時に助け船を出してくれた。
「お兄ちゃんが、楽しい曲を聞かせてあげる」
「お姉ちゃんと、ボール遊びしようよ」
ぶっきらぼうな江角君VS可愛い里沙ちゃん。
勝負は直ぐに決まり、男の子は里沙ちゃんと手をつないで広場の向こうに走って行く。
私は、それを見ながら先生には悪いけれど、男の子はこんなに小さい時から女の子の見せかけに釣られるんだなと思ってしまった。
だって普通少しは考えるでしょ?!
そして、やっと男の子から解放されたロンが私に甘えに来た。
『あなたも一緒よ!』コツンと軽くロンの頭を叩いた。
叩かれたロンは不思議そうな顔をして私の顔を見上げてハアハアしていた。
夕食の準備までは、まだ間があったので各自でソロの練習をしたり、デュエットの練習をしたり、本を読んだり宿題をしたりと思い思いに過ごした。
私は、里沙ちゃんと茂山さんとでロンの散歩を楽しんだ。
茂山さんは熊が出たときの用心棒!
いくら熊でも、茂山さんみたいに大きい人がいて、しかもロンに吠えられたら驚いて逃げてしまうに違いない。
登山道のような道を三十分くらい上って行くと急に前が開け小高い丘の頂上に出た。
風が涼しくて遠くの山並みが見えて、それになによりも空が360度開けて気持ちが良かった。
しばらく四人で草の上に寝っ転がって空を見て過ごした。
現実主義者のロンは空なんて見ようともしなかったけど、そのかわり仰向けに寝転んだ私の胸に頭を乗せて甘えていた。
『やっぱりロンは可愛らしい』





