サマーコンサート⑰
『突然おどろかせてゴメン。実は俺、アメリカの大学病院で最先端の医療を学んでくることになり、出発日の都合で、サマーコンサートに出ることができない』
『最先端医療を学ぶことは、医者として願ってもないチャンスなんだ。鮎沢は分かってくれると思うけれど、医者としてのステータスと言う意味じゃなく、救える命を増やすためにどうしても必要なんだ』
『ところで教育実習の疲れが出ているんじゃないか? 病院に行って診てもらって、無理をしないでしばらくはゆっくり休め』
短いメールだけど、いつも端的なメールしか送って来ない江角君にしては饒舌なメールに心が癒される。
う~ん……たしかに、教育実習は思っていた以上にハードだった。
中学高校と生徒として過ごしていたときの事を大学生になって思い返したとき、よくあれだけハードに過ごしていたなと思っていたけれど、実習生として教師の立場を少しかじっただけだけで先生があんなにハードな仕事だなんて知らなかった。
人を育てることって、つまりそう言うこと。
そして江角君もまた、人を育つようにサポートする仕事に前向きに取り組んでいるのだと思った。
大学生活最後に行われるコンサートを、江角君と一緒に楽しんで大切な思い出にしたいと思っていたのは、何不自由なく生きている私の我儘。
世の中には、もっともっと大変な立場に置かれている人は沢山居る。
だからと言って、我慢をしなさいとは思わないし、私自身も我慢まではしないだろう。
だけど江角君は違う。
大変な立場に置かれている人の中で、特に医療という技術を使って大変なことが少しでも大変ではなくなるように頑張っている。
医者だけではなく、それは皆が担っていること。
「ペットの保険もそうよ」と声を掛けると、ロンはチラッと私を見た。
いつも保険を使うわけではない。
ロンが保険を使わない時は、私が支払っている掛け金は、他に必要になっている誰かが使う。
そしてロンが病気や怪我で保険が必要になったときは、また他の人たちが支払った掛け金を使わせてもらう。
これが共助による保険制度で、私たちが使う健康保険もコレにあたる。
大人になると子供の時に何も考えず当たり前だと思っていたことの仕組みが分かり、その仕組みが分かると大人って凄いなって思えてくるから不思議。





