サマーコンサート⑭
海が綺麗。
そして潮風も気持ちいい。
大学に入った時江角くんに連れて行ってもらって以来、久し振りにここに来た。
あの時は、学校が終わったあと。
目の前に見えるシーパラダイスは華やかにライトアップされていたけれど、平日の午前中のシーパラダイスは、どこか寂しさを感じる。
あの時、江角君は何か話がる様子で私をここに連れて来てくれた。
今日は逆。
私が、江角君を連れてきた。
でも、あの時と変わらない思いが心を騒めかす。
“愛の囁き?”
それとも
“別れ話?”
あの時、江角君は私に1年間部活はしない事と、その代り一緒に練習したいと言ってくれた。
そして、江角君は長年やって来たトロンボーンから、私と一緒にデュオをするためにヴァイオリンに楽器を変えることを言ってくれた。
それから1年、私たちは一緒に学校に行き、一緒に帰り、一緒に練習して、江角君は何度もキスをしてくれた。
でも江角君が医大のキャンパスに移ってから、徐々にその数も減った。
いつもと二つ遅れの電車に乗った江角君に声を掛けられた時、正直嬉しかったけれど、心の奥底では嫌な気配も感じていた。
だから、ここに来た。
「江角君、なにか話があるのよね」
海に向けていた顔を、体ごと軽くターンさせて振り返る。
私の重い心とは逆に、スカートの裾が軽くフワッと広がり、その華やかな雰囲気に合わせるように思いっきり爽やかな笑顔を作ってみせた。





