サマーコンサート⑪
校門の前で暫く待っていると、ようやく住之江部長が来た。
何をしていたのか聞くと、ただ単に私を見送っていて、自分が帰ることをすっかり忘れていた。と、にわかには信じられないようなオチを言う。
でも、なんとなくそれが住之江部長なんだなと思って笑う。
ハンター邸の夏花さんの所に挨拶によると「まあ、面白い組み合わせね」と訪問したことを喜んでくれたけど“面白い組み合わせ”とは一体どういうことなんだろう?
私はあまりユーモア―のセンスがないから“夫婦漫才”のような事は出来ないから、そんなに面白いことはないと思って話すと、何故かそれがウケて夏花さんに大笑いされてしまった。
夏花さんにお茶をいただいた帰り道、住之江部長には謝ると住之江部長は気にしていない様子で「いや、いいんですよ。やっぱ江角の親戚だけあって綺麗な人ですなぁ~」と、おじさん臭い台詞を言って私を笑わせた。
そのあと、駅前のファミレスに入って一緒に昼食をとって、お会計の時事件は起きた。
私が無理に頼んだので、支払いは私が出すと言うのに、僕の方が年上だからと言って逆に私の分も出すと言う住之江部長。
私たちのやり取りを見ていた小さい子が、持っていた玩具の拳銃を住之江部長に向けてバーンと声を上げて撃った。
その途端、目の前にいた部長が白目を見せ唸るような声を上げて床に倒れる。
“いったい何?! まさか本当に弾が出たの?? それとも脳卒中?”
私が慌てて部長の様子を診るために、腰を降ろして心配しているのに、部長を撃った子供は嬉しそうに大喜びで笑って逃げて行った。
「大丈夫ですか?!」
「ああ、いや、だ、大丈夫です」
部長は体のあちこちを確認するように手で触る。
「これ何本に見えますか?」
部長の目の前に、持っていたシャーペンを縦にして聞くと「にほん」と答えた。
“脳卒中かも知れない!”
私はお会計を済ます間、部長に椅子に座っていてもらい、お店の人に近くの総合病院の場所を聞いた。
お店のお姉さんは、何故かキョロキョロニコニコしながら教えてくれた。
「部長、歩けますか?」
「あっ?は、はい……」
歩かせるのは良くないけれど、お店の中だと迷惑も掛かると思い、一旦外に出してタクシーを呼ぼうと思った。
「じゃあ、私の肩につかまって下さい」
「えっ!?」
「ゆっくりで構いません」
「あ、あの……」
「だめですか、じゃあ、ここで救急車を呼びます」
「ど、どうして、きゅ、救急車なんです?」
「大丈夫です。私に任せて!」
「い、いや。ぼ、僕は、だ、大丈夫ですよ」
「落ち着いて下さい部長、さっき私はシャーペンを出して何本に見えるか聞いた時、1本のシャーペンに部長は2本と答えました、それにさっきから少し言葉が“どもって”いますので、軽い脳内出血の可能性がります」
私が動こうとする部長の肩を抑え、説明すると、部長は「か、可能性はありませんよ」と言った。
そしてキョトンとする私の顔を見ながら「ぼ、僕はシャーペンを見せられて何本か聞かれたので日本、つまりJapaneseとジョークで返しただけですよ。そ、それに少し“どもる”のは僕の癖で、別に言語障害ではありません」
「でも、子供に銃で撃たれて倒れました……」
「関東では、なじみがないかもしれませんが、関西では撃つマネをされたとき死ぬマネをするのは“お約束”なんです。だから大阪生まれの僕は、そのお約束を守っただけです」
ふーっと全身の力が抜けて、床にしゃがみこんだ。
「もー心配しちゃって損したわ」
夕方の散歩のとき、今日あったことをロンに話しながら歩いていた。
勿論、住之江部長が子供に撃たれて死にそうな演技をしたことも。
いつものベンチに腰掛けて「いくら“お約束”だからって、あそこまで迫真の演技する事無いのにね」
私の文句をロンは楽しそうに聞いてくれる。
その顔が、本当に楽しそうだったので、私もおかしくなってきた。
“!”
その途端閃いたことがあった。
「そうよ、これこれ! ありがとうロン。私の話を聞いて笑ってくれて!」





