サマーコンサート⑧
全ての演奏が終わった。
やり遂げた充実感と、終わってしまった寂しい気持ちが残る。
「中村先生から、鮎沢先生のオーボエは凄いって聞いていましたが、本当に感動して……」
丹沢さんが、そう言って駆け寄ってくれた。
涙で最後の言葉が出ない。
「鮎沢先生、また来てください」
「大学に遊びに行ってもいいですか?」
高津さんと、鷺沼さんが言ってくれる。
鈴木君が松田君に小突かれて、やって来る。
いつも活発な鈴木君にしては珍しいので、どうしたのと聞いてみる。
鈴木君は、私の問いかけには応えないで、何だかふにゃふにゃしていて、まるで人見知りする小さな子供のよう。
松田君が「こいつね――」
そう言い出したとき「自分でできるからぁ~」と、妙に恥ずかしそうに松田君を抑えた。
何が恥ずかしいのか分からないけれど、見ているこっちまで一緒に恥ずかしい気がしてきてくすぐったいので「なによ、鈴木君らしくもない。シャキッとしなさい」と気合挿入!
「鮎沢先生、そんなに強気で、いまに泣いても知らねーぞ」
頭を掻きながらだけど、急に鈴木君が確りした。
でも、私が泣くなんて、何だろう?
いつの間にか鷺沼さんたちが傍から離れて、私と鈴木君を囲むように輪が出来ていた。
鈴木君が肩掛けバッグから、なにやら袋を取り出して、中が良く見えるように口を開いて見せた。
「鮎沢先生、郵便です」
「……なに?」
「これは、僕たち吹奏楽部一人一人が書いた、先生へのラブレター」
「えっ……」
「本当は、僕が先生宛にコッソリ渡そうと思っていたんだけど、鷺沼や高津たちに見つかって、抜け駆けはズルイって事になって1年生皆が書くって言い出して、そしたら丹沢さんたちも書きたいって言い出して、それで部長に相談したら2年生も3年生も書きたい人は最後の授業の日に出しましょうってなって、それで最初に始めた俺が先生に届ける係になったわけ。でも、一番愛情がこもっているのは絶対俺だから、選ぶのは俺を選んでね」
こんなに沢山のお手紙を一度に貰ったことがない。
まして恋愛ではないけれど、もっと大切な愛情がこもったもの。
駄目だ、我慢できない……。
目に溜まった涙が、瞬きをした拍子にポツリと零れ落ちた。
そこからは堰を切ったように止めどなく流れる。
「ありがと……みんな、本当に、ありがとう……」
嗚咽が込み上げる中、それを言うのがやっとだった。
「いよっ、感動屋!」
直ぐ傍で鈴木君が掛け声をかけると、皆が笑った。
よく耳をすませば、その笑い声の中にも沢山のすすり泣く声が混ざっている。
「ホント、みんな有り難う」
私は立っていられなくなって、手紙の束を持ったまま膝を付いてしまった。





