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サマーコンサート⑤

 部内発表会の日、住之江部長と一緒に登校すると生徒たちが皆ニコニコして元気のいい挨拶をしてくれる。

“あれっ、今までこんなにニコニコ挨拶してくれていたっけ?”

 何となく、生徒たちがいつもより増してフレンドリーで、お行儀がいい。

「なかなか良い生徒さんたちですな」

 住之江部長も気持ちが良いのか、そう言って褒めてくれていた。

 学校について、皆に住之江部長を紹介すると、今までのフレンドリーでお行儀のよかった生徒たちの顔が崩れ、騒めき出した。

「えーっ」と、あからさまな不満の声を上げる生徒もいた。

“いったい何??”

 そう思った矢先、鈴木君が「どうりで、先生のお父さんにしちゃあダンディーさが欠けると思っていたんだ」と言って皆が爆笑した。

「おっ、おとうさん?!」

 これには住之江部長もビックリして声を上げたけれど、それにも増して私も驚いた。

 住之江部長がお父さんと間違えられたことではなくて、住之江部長に対して失礼な態度を取って笑ったこと。

 教育実習中一度もこんなことはなかった。

 確かに住之江部長は年より老けて見えるし、ひょうきんな顔立ちと言えるかも知れない。

 それにしても、あんまりだ。

 私はどうしたものかと考えた。

 いきなり怒り出したら、生徒たちには只のヒステリーとしか映らないだろう。

 かと言って、急に冷たくしても、彼等にはその意味は分からない。

 お説教をはじめても、おそらく嫌な気持ちになるだけ。

 どうしたら……。

 急にロンの顔を思い出す。

 ロンが知らず知らず悪いことをしたときに、私はどうしていたか?

 叩いた?

 くどくどと叱った?

 無視した?

 どれとも違う。

 私がしたことは、自分の気持ちを端的に伝えたこと。

 犬とは心で通じ合っている。

 だから、もっと賢い人間相手なら良く分かってくれるはず。

 私は自分が思ったことだけを生徒たちに伝えた。

「住之江部長は、私が大学でお世話になっている大切な先輩です。そして今日は私が無理に頼んで指揮者として来てもらいました。いまの皆さんの態度に私は失望しましたが、それでも今日は私の最後の授業を始めたいと思います。準備を始めましょう」

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