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サマーコンサート②

「住之江部長、何しているんですか?」

 僕に問いかける鮎沢の声は、他の者には普通の女の子の声に聞こえるかも知れない。

 だけど僕は知っている。

 その声は、声じゃないと言う事を。

 鮎沢は、フェアリー。

 学校というキャンパスに迷い込み、いま僕の隣にチョコンと座ったフェアリーが、背中に付いている綺麗な虹色の羽を擦り合わせて音を出している。

 そして擦り合わされた羽からは、淡い憧れ色の鱗粉が微かな風に乗り、周囲に薄く小さな花模様の霧を作り出し人の心を誘う。

 彼女自身には、ひとつとして危険な要素は無いと言うのに、誘われる僕の心の中は危険な気持ちでいっぱいになる。

「あ、あ、あ……こ、これは、こ、今年のさ、サマーコンサート用の楽譜です」

「サマーコンサートかぁ……なんだか寂しくなっちゃいますね」

「は、はい……」

 そう。

 毎年8月に行われるサマーコンサートは、4年生の引退コンサートになる。

 大学の場合は理系は実験などで忙しかったりして普通に大学に来ながら就活もしなくてはいけないので大変なのだけど、私のような文系ではチャンと単位を取得してきた人はもう取るべき単位も無くなり暇を待て余すけれど、それまでサボっていた人たちは単位取得のために四六時中大学の講義に参加する頃になる。

 暇になる人もいれば、忙しくなる人もいるということ。

 卒業の目途が立てば、あとは就職が決まり次第みんなフリーになるから、高校の時の大学受験のために部活動を辞めるという考えは当てはまらない。

 実際に家業を継ぐことが決まっている人にとっては、4年生と言うのは自由を謳歌する時期でもある。

 だから、この8月のサマーコンサートは、一応のけじめを付けるコンサート。

 4年生はこれ以降、“辞める”のではなくて一線を退くということ。

 これ以降は3年生を中心とした組織を構築するため、例え部活に参加したとしても、それは隠居として陰で支える役目にまわることになる。

 いままで大学院生として長らく部活を支えて来てくれた住之江部長も、今年のサマーコンサートで引退。

 大学に入学した当時、4年は長いと思っていたのに、まるであっと言う間。

 感覚的には中学や高校での3年間よりも短く感じるし、ひょっとしたら小学生の時の一年間よりも短く感じてしまう。

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