教育実習㉝
音楽を聴いて、真っ先に思い出したのは私たちの木管大戦争の時の、凛香さんたち三年生の演奏。
それも演奏が始まって直ぐの、各パートが一体感がなくバラバラな状態の時。
いや、あの時は各パートのレベルが高かったから、音を個別に拾って聞くとまだ聞けた。
でも、これはいったい……。
上手い人、そうでない人、各々がただ一所懸命に演奏している。
嫌味はない。
むしろ、その逆で、微笑ましささえある。
どう言えば良いのだろう?
もしもこれが小学校なら“みんなよく頑張っていますね”と褒めてあげるのが普通だろう。
でもここは高校、そして彼等もまた高校生。
こんな時、門倉先生はどうしただろう?中村先生は?中学時代の持田先生は?
駄目出しをしてきただろうか……。
演奏を聴きながら思い出す。
いや、誰にも駄目出しなどされた覚えがない。
かと言って、こういう時に無理に褒められた記憶もない。
目を閉じて聞いていたのを止めた。
一人一人の顔をよく見ながら、その音を聴き分けていた。
張り切っている鈴木君、額に汗を浮かべて楽譜に食らいつくように演奏している丹沢さん。その他の人たちも自分のベストな演奏をするのに夢中で、他の人の音が耳に入っていないのだ。
“我武者羅!”
そう彼等は今、我武者羅に自分の演奏と向き合い、そして殻を破るために戦っている。





