教育実習㉘
午後からの練習は自由練習だけど、私は生徒たちにひとつのテーマを与えてみた。
それはミニコンサート。
同じ楽器同士の練習や家に帰ってからの一人での練習は良くやるだろうけれど、その他はグループ練習と全体練習となり、いきなり大勢での演奏になってしまう。
ミニコンサートなら人数が多くても10人にも満たないはずで、その規模なら他の人の音も耳に入りやすく、なによりも自分の音が隠れないし隠せない。
そしてグループごとの演奏会は、私がこの教育実習を去った1カ月後の土曜日と決めた。
相談時間は30分。
皆はグループを組むために奔走する。
ほとんど最初は仲の好い人同士組もうとする。
いつも一緒に練習している同じ楽器を担当する者同士が、やはり仲が良くて多い。
だけど同じ楽器のディオは余程演奏に自信がないと難しい。下手をすると小学生の時の鍵盤ハーモニカの発表みたいになっちゃうし、それに二人きりというのも心もとなく感じるだろう。
次第に仲の好い者同士で組もうとしたグループは怪しくなり、そわそわと周囲を気にし始める。
そうしているうちに台頭してきたのがリーダー格を中心とするグループ。
リーダーとして仲間を誘う生徒には、大まかに曲や楽器構成のイメージが出来ていて、それにのっとって良いメンバーを集めようと翻弄する。
各リーダーたちのグループは精力的で、お互いに必要とするメンバーが取り合いになる事もあるが、そう言う時の判断は遺恨を残さないように“じゃんけん”でと決めておいた。
各リーダーたちは瞬く間に、自分たちのグループを形成して行く。
大体のグループは学年同士で組まれるけれど、中には担当楽器の演奏者がいない場合や下級生に優秀な子が居る場合学年に関係なく技能中心に結成されたグループもあったし、また自主練習の環境に目を着けて同じ中学出身や家が近所の者同士で学年の壁を越えて組まれたグループもあった。
大まかにグループ分けが出来上がり出して、タイムリミットが近くなってもナカナカ決まらないのは1年生を中心とした生徒たち。
やはり最下級生と言う事で、音楽的にも上級生に比べると見劣りするのだろう、一部の生徒を除いて殆どの生徒がまだ決められずにいた。
自分で言い出したにもかかわらず、チョッと軽薄過ぎたと反省しながら行方を見つめていた。
一年生の中でも仲良しだけでグループを組んだ者たちもあり、残る人数はあと20数人ほど。
その中で二人の生徒が精力的に動いていているのが目に付いた。
一人は男子の松田君、そして女子の方は高津さん。
ホルン担当の松田君はサックス担当の鈴木君とファゴット担当の鶴見君を引き込んで、クラリネットの女子に声を掛けていた。
それに対して高津さんも女子を中心に声を掛けている。
困ったのは、二年生の中で唯一余ってしまっている丹沢さん。
オーボエの音は目立ちすぎるので、まだ不慣れな丹沢さんは敬遠されたのだ。
しかし直ぐに状況は変わった。
その丹沢さんをめぐって松田君と高津さんが同時に声を掛けてくれた。
どっちに良い返事をしていいか迷っている丹沢さん。
交渉を始めた松田君と高津さん。
次はジャンケンか……。
そう思ったあと、思わぬ事態が起こった。
なんと高津さんが丹沢さんの手を引いて、松田君のグループに入ってしまったのだ。
これで松田君のグループは松田君が木管五重奏を組もうとしたメンバーに、さらに同じ編成を組もうしていた高津さんのグループが加わり10人編成の木管アンサンブルが出来上がった。
「さあ、残った人はここに集合!」
そう。
見た目は凄く目立つくせに、まるで今まで影を消すようにしていた鷺沼さんがここで声を上げた。
残っているメンバーと言えば1年生のティンパニーとシロフォン以外は、全て金管楽器。
それじゃあ、あんまりなので私がそのグループに入ると言うと、周りの生徒がワーと歓声を上げて、鷺沼さんは「そう来ると思っていたんだ」と快く迎えてくれた。
さてさて、これから1カ月間、どうなる事やらです。





