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教育実習㉗

 その日は私も自分のオーボエを持って行き、丹沢さんたちと一緒にリードを作って、演奏にも参加させてもらった。

 丹沢さんにリードの作り方を教えてあげているとき、鈴木君の方をチラッと見たら子供みたいにわざとらしく顔を背けたのが、まるで中学時代の伊藤君そのままで可愛い。

 それからも丹沢さんのお世話をしながらチョコチョコと鈴木君を見ていたら、なんどもこっちを見ている鈴木君。

“これは、使命感高いわぁ~!”

 と、そのたびに変な使命感に燃える私。

「鮎沢ぁ~助かるわ。さすが全国大会に導いた時の部長だけある。頼もしいぞ!」

 不意に中村先生が肩を叩いて、褒めてくれた。

 教育実習が始まった日にも、部員たちの前で“全国大会で金賞に導いた時に部長をしていた鮎沢さん”と紹介されてしまい、プレッシャーで上がってしまった。

 だけどいまの子たちは、そんな古い肩書など気にしないでくれて助かった。むしろ気にして、硬くなってしまったのは私の方。

 今の言葉にも誰も反応せず練習を続けてい――……ると、思っていたら半分以上の生徒の視線を浴びているのが分かった。

 視線はホンノ一瞬だったけれど、なんでだろう??

 その日は中村先生に急用が入って午後から帰ることになり、先生から部活動はここで終わりだと生徒たちに告げると、ブーイングが起こった。

 困った中村先生から、午後も生徒たちを頼めるか聞かれたので、快く引き受ける。だって、元々最後まで居るつもりで来ていたから。

 一応、中村先生が門倉先生と教頭先生に連絡を取ってくれて、私が教育実習の一環として生徒たちを見る事になった。もちろんサポートはしてもらえる。

 折角持って来たお昼のお弁当も中村先生が帰ってしまったので独りで食べることになってしまったと寂しく思っていると、丹沢さんたちが“一緒に食べませんか”と誘ってくれて、学生時代良くお弁当を広げていたあの中庭で久し振りに楽しくランチタイムを取る。

 私たちがお弁当を広げていたら、直ぐに2年生と1年生の女子が集まって来て、そのあとから「こら、お前たちずるいぞ!」と言って3年生の女子もその輪に加わり、お弁当大会のようになった。

「どうしたのみんな……」

 今までそんなに特別待遇でもなかったのにと思い、驚いて私が聞くと3年の小淵副部長がみんなを代表するように「だって、たった3週間しかいない鮎沢先生とあんまり仲良くしちゃうと、今まで長い間見てくれていた中村先生に悪いでしょ、それに……」

「それに?」

「それに門倉先生が顧問を外れてから3年連続全国大会出場を逃して一番悔しい思いをしているのは中村先生のはずだから、特に全国大会で金賞を取った時の部長だからって理由で鮎沢先生をチヤホヤしていたら、余計寂しい思いをさせちゃうんじゃないかって皆で話し合って決めていたの」

 小淵さんの話を聞いて、みんな凄いと思った。

 お箸で持ち上げていたご飯がポロリと元の場所へ転がり落ちた。

「あ、ありがとうみんな……」

 生徒たちの中村先生への思いやりが、心をキュンと熱くして我慢しきれずに涙が零れる。

「先生、大丈夫!?」

 私の隣に居た丹沢さんたちが、心配して声を掛けてくれる。

「ありがとうみんな」

 同じ言葉を繰り返す事しか出来なくて、蹲る。

 生徒たちの中にも、数人一緒に泣いてくれる子が居た。

 少し湿っぽくなる雰囲気……。

「いよっ! 感動屋!!」

 いつの間にか集まっていた男子生徒の中から、一際大きな声が飛び出し、その声につられてみんなが笑い出す。

“えっ!? 伊藤君??”

 そう。“いよっ!感動屋!”と言う台詞は、私が感動して泣きだしたときに伊藤君が言い出した台詞。

 顔を上げて伊藤君を探すと、そこには伊藤君ではなくて鈴木君が私を見て笑っていた。

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