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教育実習㉕

「いないよ――って、そんなんいくら可愛いからって短期間の教育実習の先生に言える訳ないだろ!」

“えっ、いま鈴木君、なんて言った??”

 少しムキになって言った鈴木君の言葉の中に、チョッとだけ嬉しい言葉も混ざっていたけれど“それにしても短期間の教育実習生には言えないなんて馬鹿にしているわ! もうこうなったら意地でも聞き出してやるんだから!”

 なんとなく鈴木君と痴話げんかみたいな会話を繰り返しながら、そのまま校庭に入ると、丁度当番の子が正面玄関から職員室に向かっているところを発見。

 しかも二人のうち、片方の女子は丹沢さん。

“ここは一丁、布石を打っておきますか――”

「おはよー!!」

 私は大きな声で元気よく、その二人に声を掛けた。

 向こうも気が付いてくれて、少し恥ずかしそうにペコリと頭を下げて「おはようございます」と、ここまでは聞こえる程度の声で挨拶してくれた。

“もうチョッと大きなリアクションだったら、鈴木君へのアピールポイントも高かったのに……”

 そう思いつつも「みんな朝から元気だね!」と、隣に居るはずの鈴木君に軽く肘鉄砲をぶつけて言った。

 肘鉄砲に面食らったのか、コホンと咳ばらいを一つ打って、鈴木君が喋る。

「いやあ鮎沢先生の元気さに比べればマダマダ、これからも確り頼みますよ」

“んっ!??”

 聞こえたその声は、鈴木君の声ではない。

 慌てて横を見て驚いた。

「きょ、教頭先生!!おっおはようございます!!」

 教頭先生は、少し困ったような、それでいて嬉しいようなどっちつかずの笑顔で「おはようございます鮎沢先生」と答えながら、私の打った脇腹を手で擦っていた。

 教頭先生の向こう側を、鈴木君と松田君が走りながら校舎に入って行くのが見えた。

“しまった!”

 そういえば、私の下駄箱は正面玄関だったけれど、二人は後者の向こう側だった。だから私が正面玄関に向かって歩きながら丹沢さんに声を掛けたときは、もう向こう側に離れていたに違いない。すると、教頭先生はいつから私の隣に……?

 私はおもむろに腕時計を確認して「あらイケナイ、もうこんな時間。教頭先生お先に失礼します!」と言って正面玄関に向かって走り出す。

 後ろから教頭先生が声を掛けてくれた。

「廊下は走っちゃイカンぞー!」

「はーい。気を付けまーす!」

 不意に言われて無意識に答えてしまったけれど、私の返した返事は教頭先生に対して明らかに馴れ馴れしい。

 それに年上の先生に向かって、語尾を伸ばして返事を返すなんて、いくら動揺していたからって言語道断!

 これはマズイ。

 そう思って下駄箱で靴を履き替える時に、チラッと気にして見た。

 でも教頭先生は、いつもの厳しい感じではなく、のんびりと散歩を楽しんでいるお年寄りのように、春の陽気を確かめながら歩いていた。

“なんで? なんかホント雰囲気違うんですけれど”

 ひょっとしたら、授業のない土曜日という日の出勤が、そうさせているのかも知れない。

 そう言えば私が学生だった頃も、休日練習の日は結構先生たちは友達のように接してくれていたのを思い出した。

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