中学最後の大会⑤
全体練習になると必ずどこかで誰かがミスをする。
私たち木管はミスが少なかったけれど、何故か全体が旨くいきかけたときに限ってミスが出てしまう。
最後の最後で私もミスをした。
先生からは集中力が足りないと指摘され、江角君からは練習量が足りないと言われ落ち込んだ。
もちろん私に対してではなくて、全員に向けての指摘なのだけど。
ミスをしない江角君が羨ましい。
「ほら!ボケボケしないで早く片付ける!」
自己嫌悪に陥ってボーっとしていたら急に声を掛けられた。
「里沙、まだいてくれていたんだ」
「だから、一緒に帰ろって言ったでしょ」
里沙ちゃんとは小学校が違うから一緒に帰るといっても校門を出てほんの少し行った十字路で右と左に分かれてしまう。
普通に歩けば五分も掛からない。
たった五分一緒にいるために里沙ちゃんは四時間も待ってくれたのだと思うと、なんだかとっても嬉しくて、そして申し訳なく思う。
「ねえねえ。千春の担当の楽器ってオーボエって言うんでしょ!難しいの?」
珍しく里沙ちゃんが楽器のことを聞いてきた。
「う~ん。結構難しいかな、ミスも隠せないし」
曲によってソロパートも多く、それに大きく澄み切ったその音色は圧倒的にミスが許されない。
「なんでオーボエを選んだの?」
「うん、お母さんが見ていたドラマの主題歌かなにかで演奏されていて好きになった」
「気に入ったってことだよね」
「だと思う」
「ふ~ん……」
どうしたんだろう?
私がそう思ったとき急に里沙ちゃんが私の前に出て振り返って、質問をぶつけてきた。
「じゃあ、私にはどの楽器が似合うと思う?」
「えっ!里沙ちゃん楽器始めるの?」
里沙ちゃんは少し空を見上げるようにして照れ笑いして
「まだ決めたわけじゃないんだけど、やってみたいなぁ~って思って」
「ねえ、千春。なにが良いと思う?」
何が良いと言われても、里沙ちゃんに何が合うか分からないので、印象的に言ってと前置きして
「サックスかな」と答えた。
本当はユーフォニアムあたりが覚えやすいとは思ったのだけど里沙ちゃんとイメージが合わなかったのでやめておいた。
まあ、難しく考えたって、どうせいつもの里沙ちゃんの気まぐれだろうし。
だいいち里沙ちゃんには私立の高校のソフトボール部からスカウトが来るっていう噂だし。





