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教育実習⑰

 朝5時に目を覚まし、歯を磨いて顔を洗って、ジャージに着替える。

 でも私の頭はまだ起きていないし、これから散歩に行くはずのロンもまだ少しボーっとしている。

「さっ、行くわよ」

 いつもより1時間早い散歩に、ロンは“何があったのだろう?”と、心配して私の顔を何度も見上げながら歩き出す。

 五月の外はもう充分明るいけれど、まだこの時間は肌寒い。

 それでもロンと走っていると、直ぐに暖まってきた。

 走っているうちに、夜のうちに錆びていた体のパーツに油が染み込んでいくように、徐々に動きが良くなるのが自分でも分かる。もちろん眠くてボーっとしていた頭のパーツも。

 頭のパーツに関して言えば走っている事よりも、あちこちで咲いている花の香りやその鮮やかさ、すれ違う同じように散歩をしている人やジョギングをしている人と交わす朝の挨拶、それにたまにロンが見せる面白い行動や可愛い顔が私の頭に良く作用する。

 5時45分に散歩から帰り、ロンのケア。

 お母さんが、してくれるって言ってくれたけれど、チャンと全部自分でするためにこの時間に起きたのだからと断った。

 ブラッシングや散歩のあとのケアは、ロンと私の大切な時間。

 ちゃんとこういった面倒を見てあげないと、ただの散歩してくれる人になってしまう。

 6時に軽くシャワーを浴びて、髪を乾かしてセットしていたら、もう20分近く過ぎていた。

 お母さんが作ってくれた朝食を摂り、直ぐに歯を磨いてお化粧をして大急ぎで着替えて6時45分に玄関を出る。

 ロンが急いでいる私を、伏せたまま横目を向けて、つまらないモードで見ていた。

 それでも、私が玄関から出るときは、チャンと行ってらっしゃいを言うように出て来てくれた。

 いつもは歩いて駅まで行っていたけれど、そんな余裕なんてないので自転車に跨り急いで駅に向かい、電車に乗ってようやく気持ちが落ち着いた。

“先生達って、毎日こんなに慌ただしい朝を迎えていたの??”

 まあ私が朝忙しいのは、ロンの散歩とか行ったせいなのだけど。

 電車から降りると、また慌ただしさが戻るように小走りに学校へ向かう。

 今朝も道の向こうには、夏花さんがホウキで道を掃除しているのが見えた。

「おはようございます!」

「おはよう! 鮎沢先生、ファイト!」

「ありがとうございます。頑張ります!」

 女医の夏花先生から、先生と呼ばれて凄く心が熱くなった。

 まだ卵でもないけれど、生徒たちから見れば、私は未来の先生なのだ。

 子供たちに勉強を教えるだけでなく、子供たちと遊び、子供たちと同じ目線に立って、子供たちに信頼されて、子供たちを大人として認めてあげる。

 時には注意したり怒ったりして、時には一緒に悩んだり泣いたり、そして時には一緒に走ったり笑ったり……。

 色々な難しい事や、矛盾した事にも出来合わすのだろうな。と考えながら走っていた。

「先生おはよう!」

 生徒に声を掛けられて、横を見ると、そこには鈴木君と松田君のふたりが居た。

「おはよう、鈴木君と松田君。早いのね」

「僕たち当番だから、今日は一番に学校に入って部室を開けなくっちゃいけないんだ」

「そう、大変ね……でも、一番は私が貰っちゃうよ!」

 急に、頭の中で思いついた悪戯。

 それは彼等より、先に学校について、私が部室の鍵を開けてしまうこと。

 私が全力で駆けだすと、それまで当番をだるそうに言っていた彼等も走り出した。

「先生、当番は俺たちなんだから!」

 後ろから追いかけて来る二人が言う。

 だけど、私は聞こえないふりをして、そのまま校門を駆け抜けて学校に入って行った。

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