教育実習⑯
結局、そうなのだ。
興味がると言う事を無視していてはならない。
興味があることから入って、ドンドン掘り起こして行けば、世界も広くなる。
何となく鷺沼さんたちの行動に、その事を教えられた気がした。
それにしても、のんびり部活に顔を出していたら、そのあとにしなくてはならない事が盛りだくさん過ぎて、結局学校を出たときは夜の9時を回っていた。
「ハイ、鮎沢先生、お疲れ様」
「中村先生、今日は一日有難うございました」
「いいえ、それより送って行こうか? わたし車だから」
中村先生の家は、たしか藤沢。
この学校からだと、私の住む相模原市は北に、中村先生の住む藤沢市は南になる。
「大丈夫です。この位の時間は大学で慣れていますから」
「……そう、方角的な事や時間は気にしなくていいのよ。生徒たちの入学、受験、卒業シーズンになったら、もっと遅く帰る日なんていくらでもあるんだから」
「もう、百戦錬磨ですね」
「正直、最初はへばったわよぉ~。だって新任早々、校門が開く前から学校にやって来て、閉じるギリギリまで居座って、それから休みの日にはあっちこっちでコンサート迄してしまう強烈な部員たちの面倒を見させられたんですからネッ」
そう言って、中村先生に睨まれた。
「あっ、えっと……スミマセン。あの頃は、先生たちは授業が終わったら特にする事も無いと思っていたし、とにかく自分たちのことで精一杯だったから……」
「いいのよ。おかげで楽しかったし、あの頃のおかげで今こうしてここに居られると思うの」
「と、言うと……」
「まっ、いいからいいから。さあ、用事が住んだらサッサと帰る! 明日も吹奏楽の朝練見に来るなら、早寝早起きしないと間に合わないよ!」
「はい。ではお先に失礼します」
「待て! 駅まで送らせろ」
「ハイ。ありがとうございます」
中村先生に駅まで送ってもらって、そこから電車に乗って家まで帰った。
玄関を開けると、待ちわびたようにロンが飛び掛かって来て喜んでくれた。
「まあ、遅かったのねぇ。夕ご飯は食べたの?」
お母さんが言ってくれて、お昼から何も食べていない事に気が付くと、お腹がグーっと鳴った。
「お腹、空いたぁ~」
「少し待っていて、温め直すから」
「あっ、だったらゆっくりでいいよ。ロンと少しだけお散歩して来るから」
「気を付けてね」
「はぁ~い」
散歩の途中、いつものベンチに座り、今日一日の事をロンに話した。
ロンは相槌も笑顔も見せてはくれない。
でも時々目が合うと、私の事を優しく見てくれる。
そして抱くと暖かい。
それだけで一日の疲れが、夜空が吸い込んでいくようにスーッと消えて行く。
「はい、鮎沢先生の話の分かった生徒は手を上げて」
そう言って差し出した手に、ロンが手を添えてくれた。
「君は本当に私にとって最高の生徒で、最高の先生。そして最高の友達」
私はロンを抱いた。
散歩を終えて、家に戻ると、もう玄関に入る前から私の好きなコーンシチューの甘い香りがしてきた。
ロンの世話をして、一緒に食卓に着くと、ロンの食器にも軽いおやつが盛られていて、私の前にはシチューとサラダ。そして果物が置いてあった。
お父さんもお母さんも、お肉が好き。
だけど、お肉を食べることに抵抗のある私のためにいつもヘルシーな夕食を出してくれる。
“ありがとう。お母さん。そしてお父さん”





