教育実習⑮
なんとなく、戸惑っていた生徒たちとの付き合い方が分かってきたような気がしてきた。
変な例えだけど、自然に接すればいいのだ。
ただし、それには条件がある。
強いリーダーシップを持ち続けること。
強いリーダーシップと言うのは、別に、威張るわけではない。
信頼させる人間で、居続ければいい。
決して裏切らず、贔屓をせず、思いやりをもち、物事に対処する能力を身に着ける。
言葉にすると大変なことかも知れないけれど、私には直ぐにイメージが湧いた。
それはロンに対する私でいればいいのだと言うこと。
クラスの皆をロンだと思えば良い。
そう思うと、凄く楽しく思えてきた。
放課後は吹奏楽部に顔を出した。
懐かしい部室。
「先生、悩み事、吹っ切れたみたいだな」
急に声を掛けられて振り向くと、そこに居たのは、あの鈴木君。そしてその後ろには松田君が居た。
「君たち、吹奏楽部だったの?」
「そうさ、でも俺たちだけじゃないぜ。もっと驚くよ」
鈴木君が指をさす。
私が、その指された指の方を追ってみるとフルートを吹いている鷺沼さんと高津さんが、演奏しながら私の方を見ていた。
「えーっ。みんなぁ!??? それじゃあ……」
ピアノの前で楽譜を見ている中村先生を見ると、松田君が「違うよ」と言った。
「中村先生は、こんな人が来ると簡単に教えてくれただけ」
「じゃあ、あなたたちが?」
いくら大人びて頭が良い子ばかりだとしても、あんなに要領を得た発表は凄すぎると内心思っていたから、中村先生と生徒たちで予め仕込みがあったのかと思って聞いた。
しかしそれは無くて、この子たちが私の状況に応じて自発的に意見を言ってくれていたことが分かった。
「でも、どうして?」
どうして私の不安が分かったのか聞きたかった。
「それは簡単な事さ、鮎沢先生はOBとして元全国大会で金賞を獲得させた伝説の部長として吹奏楽部を訪れたというのに、ちっとも自慢するどころか俺たちの曲を聴いて涙まで流してくれただろ」
「言ってみれば“感動屋”だ。感動屋っていうのは涙もろい。涙もろい人は色々考えて心配性。そんな人が教育実習に来て、どんなことを考えてしまう。つまりどんな落とし穴にハマってしまうかなんて考えるのは簡単、簡単」
松田君から後半を託さされた(?)鈴木君が胸を張って威張って言う。
「そう。ズッキーみたいな単純な威張り屋なら、こんな苦労もなかったのだけどね」
「誰が単純な威張り屋だよ!」
「でも、そうでしょ。あんたがOBじゃなくて良かったわ」
「そうズッキーがOBだったら“俺が金賞を取った部長だ!”なんて聞かれもしないのに答えて、威張り散らして居るに決まっているものね」
いつの間にか練習していて鷺沼さんたちが来ていた。
「まあまあ、そうズッキーを虐めるなよ。こいつはこいつで重要なキャラなんだから」
「そうだぞ!俺さまは貴重且つ重要なキャラなんだからな! 虐めると許さん!」
「松田君、またそうやってズッキーを甘やかすぅ」





