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教育実習⑥

「先生……」

 職員室から男女の生徒が一人ずつ顔を出して中村先生を呼ぶ。

 二人は私の顔をチラッと見て、目が合うと驚いたように会釈をして慌てて職員室に引っ込んだ。

“なんだろう?”と不思議に思っている私を見て、中村先生が軽く笑った。

そして「チョッと待っていて貰えますか?」と門倉先生に聞いてから、職員室に消えた。

 そしてその門倉先生にも直ぐに外線の電話が掛かって来て、職員室に入って行った。

 職員室前の正面玄関に、ひとり取り残されて立っている私。

 ボーっと立っていると、通りかかる生徒たちが物珍しそうにチラチラ見ながら通る。

 少し恥ずかしいので待っているあいだ各部活のトロフィーが並ぶケースを眺めていると、電話の応対の終わった門倉先生が戻って来て、トロフィーを見ている私の後ろから「鮎沢、本当に良く頑張ったよな」と言ってくれた。

 そう、このガラスケースの中には、私の大切な三年間の思い出がある。

 鶴岡部長のもとで取った銀賞。

 瑞希部長のもとで取った銅賞。

 そして私が部長の時に、OBをはじめ沢山の人の協力で取る事の出来た金賞。

 懐かしいと同時に、それから三年間、一度も東関東大会の関門を突破できずにいる後輩たちに申し訳なく思う。

 トロフィーを見ているだけなのに、沢山の思い出がよみがえって、目が少しだけ涙で潤む。

「おまたせ~。さあ、行きましょうか」

 門倉先生と中村先生の後ろについて行く。

 中庭を挟んだ向こうにある各学年の教室から、様々な懐かしいざわめきが聞こえてくる。

 階段からふざけながら降りて来た二人の女子生徒が、一瞬あの頃の里沙ちゃんと私に見えてドキッとした。しかしそれは当然のことながら私の見間違いで、登っている私たちとぶつかりそうになった二人は、ぺこりとお辞儀をして階段を駆け下りて行った。

「もーっ、だから走らないでって言ったじゃない!」

「いやぁ~ゴメンゴメン。まさか先生たちと出くわすとは思っていなかったから」

「それにしても、一番後ろにいた女の人、転校生かなぁ?」

「転校生なら、制服着ているでしょ。きっと卒業生が見学に来たんじゃない?」

 階段の下から聞こえて来た声が、直ぐに笑い声に変わり中庭の向こうに抜けて行った。

「転校生か……いいねぇ。確かに鮎沢は、そう見えなくもない」

 中村先生が、揶揄うように後ろを振り返って笑う。

「もう、揶揄わないでください。私、もう21なんですから」

「まあ、でも、鮎沢は昔とちっとも変っていないからな」

 門倉先生にまで、そう言われると何だか自信がなくなって来る。

“わたし、本当に教育実習、務まるのかしら……”

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