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教育実習④

 家を出て、駅に着く。

 大学に通う時間よりも随分早い。

 毎日通っているのに、何故か駅のホームが懐かしく思える。

 真新しい高校の制服を着た私が、何の気なしに並んでいる列の後ろに並ぼうとすると、里沙ちゃんに腕を引かれた。

「チョット待って……」

 そういうと、里沙ちゃんがキョロキョロしながら、私を連れて並ぶ場所を探す。

「ここじゃ駄目なの?」って聞くと「三年間電車で通うと言うことは、三年間同じ電車に乗る人たちとも一緒に車内を過ごすということだから、適当なところに乗るわけにはいかない」と、教えてくれた。

 そして手を引かれて、ようやく乗った車両には江角君も乗っていて、里沙ちゃんの悪だくみに気が付いた私が軽く睨むと「もしもの時の用心棒が必要なのよ」と悪戯っぽく笑った。

 このホームには、里沙ちゃんも江角君も居ないし、居たとしてももう高校生ではない。

 けれども、私にはハッキリと見える。

 あの時の光景が鮮やかに。

 電車が来た。

 私は、高校の時と同じ列に並び、同じ車両の同じ位置に乗った。

 周りには母校の制服を着た生徒が何人かいて、またあの頃のことを思い出す。

 女子生徒が肩に担いでいるケースに気を取られた。

 私のと同じ。

“吹奏楽部ですか?”

“楽器はオーボエ?”

“私も高校の時吹奏楽部でオーボエを担当していたのよ”

 口には出せなくて、心の中で呟いていた。

 駅に着いて、学校へ向かう道を生徒たちに混じって歩く。

 いつも決まった人たちが通る道。

 その中に居る、見知らぬ女性。

 誰も私のことなど気にせずに、友達と仲良くお喋りしながら歩いているように見えるけれど、私には生徒たちから無言の注目を浴びている気がしてならない。

 キチンとしなければ!

 そう思うと、自然に体の筋肉が硬直して、まるでロボットになったみたいな歩き方になってしまう。

 丁度ハンター邸の近くを通りかかったとき、院長先生の夏花さんがホウキを持って道の掃除をしていたけれど、直ぐに私に気が付いて声を掛けてくれた。

 屹度、江角君から聞いて、私が通るのを待っていてくれたんだ。

「おはようございます。千春先生!」

 夏花さんの、いきなりの先生発言に驚いた。

 そして、その声に周りの学生が直ぐに反応した。

「ほら言ったでしょ、やっぱり教育実習の先生なんだ」

「千春先生って呼ばれていたけど、珍しい苗字だよな。下の名前なんて言うのかな」

「なんの教科担当なのかなぁ? 国語だったら嬉しいな」

「数学だったら? もう、やめてよ。そんなの最低!」

「どこのクラスに入るんだろう?」

「結構、美人じゃん」

 今まで無理に気にしない素振りを見せていた学生たちがチラチラと私を見て、口々に勝手なことを囁きはじめた。

「夏花先生、おはようございます」

 学生たちからの視線を振り切るように、小走りに夏花さんの所まで走る。

「もーっ、やめて下さいよ。私は未だ学生なんですから」

「あら、ごめんなさい。でも紘ちゃんから千春ちゃんは“屹度ロボットみたいに緊張してカチカチになりながら登校してくるはずだから、もし言った通りの姿を見かけたら何か声を掛けてやってくれ”っていうモノだから」

「私そんなに緊張しているように見えました?」

「見えた見えた。まるで意識を失ったC-3POが歩いて来るみたいに、キンキラキンに目立っていたわよ」

「え~~~~っ!」

 思わず大声を出してしまい、また学生たちの注目を浴びてしまった。

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