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教育実習③

 朝早く起きてロンの散歩に出た。

「おはよー千春!」」

「凛香さん、おはようございます」

 まるで私が通るのを待っていたかのように、足立先輩の家の前を通ると、庭でラッキーと遊んでいた凛香さんに声を掛けられた。

「いよいよ今日からだね」

 その言葉に、また心臓がドキドキと反応を始める。

 そう。

 今日は教育実習初日。

「朝早くて、学生時代を思い出すだろ」

 凛香さんが庭から出て来て、一緒に肩を並べて散歩してくれる。

 学校の先生って、思った以上に朝が早い。

「だいぶ緊張しているみたいだけど、大丈夫?」

「はい。……でも、私……自信ない……」

 正直、プレッシャーに押しつぶされそう。

「大丈夫よ。千春なら」

「そ、そうですか?」

「だって、高校の時も先輩に可愛がられていたし、後輩の面倒もよく見ていたし」

 確かに吹奏楽部ではそうだったと思う。

 でも、それは同級生の江角君や里沙ちゃんが居て、いつも励ましてくれていたから。

 今度は同級生なんていない。

「凛香さんは教育実習どうでした?」

「わたしもドキドキしていたよ。今の千春みたいにね。だけど門倉先生も居たし、千春のおかげで中村先生とも仲良くさせてもらって、それに三年生になっていたホリエモンや加奈子やさくらも居たから。楽しくてこのまま教師になっちゃおうかと本気で思ったくらいだよ」

「どうして、教師にならなかったんですか?」

「だって私って空元気ばかりで、心はナイーブだから」

「そんなことないですよ」

「いいや。ほら、今の私があるのは、あの時に千春が助けてくれたからだよ。あれが無かったら私は今でもトゲトゲ針を纏った嫌な我儘娘のまま」

 あの時と言うのは、ミッキーの死と木管大戦争での負けでどん底にいた頃のこと。

「でも……」

「大丈夫。でもは無し。千春は他人の心の痛みがチャンと分って、それを自分の事以上に考えて行動してくれる人でしょ。それにチャンと凄い指南役も付いているじゃない」

「指南役??」

「そう。その手の先に」

 手の先と言われて、凛香さんの顔から眼をはずし、自分の手を見た。

 手の先を辿ると、そこには青色のリードがあり、その先にはロンが居る。

 私が観ている事に気が付いたロンが振り返り、目と目が合う。

 そして、ロンは“しっかりしろよ!”とでも言うように、体を反転させたかと思うと両手で私のお腹を突いたあと、軽く走り始めた。

「ほらほら。ロンも走らなくっちゃ遅刻しちゃうぞって言っている。走れ走れ!」

 ロンに続くようにラッキーも走り出し、私たちは犬に引かれるように走り出した。

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