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道㉕

 先輩の手からポロリとクッキーが落ちた。

“あっ、マズかったかな……”

 つい、江角君が後押ししてくれたから言っちゃったけど。

 先輩は落としたクッキーを見るように、下を向いたまま。

「いつから……」

 告白したきり黙っている私たちの沈黙を破るように、先輩が口を開く。

「えっ!?」

 その言葉の意味が分からずに、ただドキドキするだけの私。

「いつからなの、そう思ったのって……」

 やっぱり、年下の私からこんなこと言うべきじゃなかったのかな。

 そう思いながら、正直に伝えるしかなかった。

「いつからかは覚えていないけれど、ズット以前からそう思っていたと思います」

「思います?」

「そう。それが去年スキーに行った時からなのか、夏の九十九里に行った時からなのか、それよりもズット前からなのか、自覚はありませんでしたから」

「いつ気が付いたの?」

「わかりません。ただハッキリと気が付いたのは昨日の里沙ちゃんのお店で先輩の曲を聴いてからだと思います」

 そこまで言ったとき、先輩の眼から涙が落ちるのが分かった。

「すみません、生意気言っちゃって」

「ううん、いいの。私、凄く嬉しい。本当はあの日、私からその事を言いたかったの“親友になって欲しい”って。でも、結局言えなかった。私って、昔から言っては駄目な事とか、言わなくても良いようなどうでもいい事は一杯言えるのに、大切な事は殆ど言えないから。こんどこそはって思っていた昨日も結局……」

「すみません」

 やっぱり出しゃばってしまったと思った。

「いいの、いいの。だって親友でしょ。どっちが先なんて関係ないわよね」

“親友”

 先輩から出た、その言葉をもう一度心の中で囁いてみた。

“親友”

 確かに先輩の口から、その言葉は出た。

「先輩!!」

「あら、いやだわ先輩だなんて。これからは“凛香”って呼ぶんじゃなかったの?」

「凛香さん」

「なあに千春」

 凛香さんは、そう言うと私の手を優しく握ってくれた。

「凛香さん」

 もう一度、声に出すと、涙が出て来た。

「ハイ、千春さん」

 凛香さんの眼も、同じように涙で滲んでいた。

「これから先、ズットずっと、私の親友でいて下さい」

「はい。こちらからもお願いします」

 凛香さんは、お淑やかに三つ指をつく真似をして私を笑わせる。

 泣きながら笑い合う私たちを、ロンとラッキーが囃し立てるようにじゃれ合っていた。

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