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道㉓

 あくる日、私はオーボエを持ってロンと足立先輩の家に遊びに行った。

 表向きは私にとって今年最大のイベントになる就活の相談。

 でも、本当の目的は足立先輩と、上下関係を越えた本当の友達になる事。

 私の中で、ずっと夢見ていたこと。

 だけど勇気がなかった。

 だって、足立先輩がそれを望んでいなかったらどうしようと思っていたから。

 今まで“先輩”と呼んでいたのに、いきなり名前で呼んで“生意気な子”と思われるのが嫌だったし、それで嫌われてしまうのではないだろうかという不安があった。

 先輩後輩のあいだで居続ければ、そう言った不安はなく、いつまでもこのままの関係を保てる。

 下手にその距離を縮めようとして、逆に距離が離れてしまうこが怖かった。

 そんな私に、江角君が勇気をくれた。

“屹度、大丈夫”

 確固たる自信は今もない。

 だけど江角君が言ってくれるのなら……。

 家が近いので、あまり考えている余裕もなく、直ぐに先輩の家に着く。

 玄関のチャイムを押す前から、私たちの足音に気が付いたのか、家の中からラッキーの喜ぶ声と、それに続いてパタパタという先輩のスリッパの音が聞こえた。

 チャイムにかけた指が、緊張で少し震える。

“ピンポーン♪”

“ガチャッ”

 まだチャイムが鳴り終わらないうちに玄関の扉が開き、元気よくエプロン姿の先輩とラッキーが出迎えてくれた。

 そして扉の向こうから小麦粉の焼ける、香ばしい匂いも。

「ヤッホー♪ ようこそ千春にロン。さあ入って、入って!」

 玄関には洗面器に汲んだお湯が、湯気を立てていて、その横には足ふき用のタオルが用意してあった。

「チョッとゴメーン。今クッキー焼いているから、ロンの足拭いたら洗面器とタオルはそのままにしておいて部屋で待っていてね」

 そう言うと、先輩はまたパタパタとスリッパを鳴らして、奥のキッチンに向かって駆けて行く。

 お手伝いをしているつもりなのか、ラッキーも盛んに尻尾を振りながら、慌てて先輩のあとを追ってキッチンに向かって行った。

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