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道⑬

「ひょっとして、楽器、あるの?」

 私が聞くと、里沙ちゃんはそれを待っていたようにニコッと笑う。

「えへー。実はね、いつでも皆にリクエストを頼めるように、隠し持っているのだよ」

「ねえねえ、私の分もあるの?」

 足立先輩が、身を乗り出して聞く。

「残念。オーボエは1本しかないです。でも足立先輩はクラリネットも演奏できますよね」

 そう。

 オーボエしか演奏できない私と違って、足立先輩はクラリネットもピアノも演奏できて、おまけに最近はギターにも挑戦しているマルチ派で羨ましい。

「じゃあ、そのオーボエは私の物ね!」

「えっ!?」

 足立先輩の予想外の言葉に里沙ちゃんが驚いた。

「よしなさいよ、凛香(足立先輩の名前)、大人げない」

 山下先輩が、そう言って(たしな)めるけれど、言うことを聞かない。

「それじゃあ、戦争よ!」

「戦争??」

「そう。お互いにオーボエで一曲演奏し合って、勝った方がその楽器の優先権を確保するの」

「わたしは、開いているときでいいですよ……」

「駄目よ!」

 足立先輩が珍しく、強い目で睨む。

「凛香、その眼って久し振り……もしかして、あの頃のリベンジ?」

 山下先輩があの頃と言ってようやく分かった。

 足立先輩の、このキツイ眼差しは、私が高校に入学したての頃の先輩の目。

 そしてリベンジとは、きっと木管大戦争のこと。

「そうよ。あのとき、個人戦で私は『情熱大陸』で千春を圧倒してやるつもりだった。正確無比なテクニックでね。それなのにナニあの曲は、私と真逆のテクニックじゃない!」

「どっ、どうしたの、凛香……まさか、あの頃の凛香に戻ったみたいじゃない」

「戻ったみたいじゃなく、戻ったのよ!」

「えっ、なんで! 折角いい子になったのに」

「なにそれ、じゃああの頃の私が嫌な子だったみたいじゃない!」

「でも、自分で良い子だったと思っているわけ??」

「そりゃあ、少しは自分勝手なところもあったかも知れないけれど……。とにかく私はもう一度、千春と勝負がしたいの! 分かるでしょ、この気持ち」

「うんにゃ、わかんない。だって何年経ってんのよ。いまさら感満載よ」

 そう言って山下先輩は呆れていた。

「いいや、分かるよ、足立の気持ち」

 鶴岡部長が呟くように言った。

「おそらく、足立にとって今だからこそなんだろ。あの時の自分じゃあ敵わなかった事はずっと分かっていて、それをいつまでも引きずっていたくない気持ち……俺も、もう一度聴いてみたい。ハンデのなくなった二人の真剣勝負を」

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