道⑨
足立先輩につられて入り口に身を乗り出すようにして覗き込む。
扉を開けて入って来たのは……
「やあ、鮎沢。久し振り」
本当に驚いてしまい、体が硬直して声も出なかった。
私とは正反対に、満面の笑みを浮かべ、腰振りダンスをしているロン。
「ロン、久し振り。おいで」
その言葉を合図に、ロンは腰を振ったまま、その人に飛びつく。
そして、まるで子供の頃に戻ったみたいに何度もジャンプしてみせたり、体の隅々まで擦り付けるように抱かれた腕の中で体をクルクルと回して見せたり。
でも、どのような動きをしても、決してその眼だけはその人物の顔を捉えて離さない。
「ゴメン。先にロンを納得させないと、話しも出来そうにないな……」
驚いて何も言えない私に掛けられた言葉なのか、それとも嬉しくて暴れまわるロンに掛けた言葉なのか、その両方なのか分からない。
でも、そう言うとその人は腰を降ろしロンに顔を舐めさせてあげていた。
肩に掛けた前足でグイグイ押す。
私なら、とうに倒されているはずなのに、ロンを抱っこしてしまうほど余裕がある。
抱っこされたロンは体を捩って、その囲いから抜け出そうとはしないで、おとなしく抱っこされたままでいる。
最近は私にもあまりしない親愛の情に、少しだけ嫉妬してしまいそう。
でも、嬉しい。 私自身も久し振りに会えて嬉しいし、ロンも同じ。
そして、ロンがこんなに嬉しそうにしているのを目に出来ることが、何よりも嬉しい。
「おかえりなさい」
やっと言葉が出たかと思うと、同時に涙も出てしまう。
大粒の涙が、頬を伝い、何粒もポツポツと落ちて床にこぼれる。
そっと優しく肩を掴んでくれる手は、江角君。
振り向いていないけれど、私には分かる。
肩に乗せられた手に、左手をそっと添えた。
右手は涙が止まらないのでハンカチを持ったまま。
「……ロン、嬉しそうだね」
「うん」
たった一言に凝縮された優しさに、止まりかけていた涙腺がまた緩む。
“もう、江角君たら……”
でも、そういう江角君が最高に好きだと思った。





