道④
いよいよイヤーエンドコンサートの日がやって来た。
場所は桜木町の駅を降りて、毎年みんなで初詣に行く伊勢山神社のすぐ手前の、県立音楽堂。
客席数は1,054席もあるので、いくら料金を取らないと言っても、この忙しい時期に半分でも埋まってくれればいいのだけど……と、自分たちの音楽よりお客さんが何人入るのかが、みんな気になっていてソワソワしてしまう。
もちろん、私も流されて気持ちがナカナカ集中できない。
外に用事だと言って出ていた住之江部長が戻って来るなり、そんな雰囲気を察して皆の前に立った。
「みんなお客さんの入りが気になっているようですが、今回のコンサートは観客からお金は取らないから1000人来ようが10人来ようが、儲けはない。むしろ1000人も来られたらコンサート後の後片付けが大変になります」
「何を言い出すのかと思ったら、いつものブレブレね」
私の隣で滝沢さんが、そう小声で言って笑った。
「でも、重要なことを忘れてはいけない。何人来たとして、そのうち何人に私たちの音楽を届けられるかということ。たとえ客が1000人来たとしても、誰も感動させられなかったらそのコンサートは失敗です。もしたった一人しか客が来なくても、その人が感動してくれれば、そのコンサートは大成功です。音楽は感性!私たちの仕事はその感性を届けることなのです」
いつものように、なんとなく良い事を言う住之江部長だけど、話しの後半ぐらいから少しだけメンバーがざわついていたのが気になった。
“せっかく部長がいい話しているのにね……”
隣の滝沢さんに小声でそう言うと、その滝沢さんが小さく指さして答えを教えてくれた。
指さされたその先を、よぉ~く見ると。
“あらヤダ!社会の窓が半開きじゃない!”
相変わらず、住之江部長のこの緩急の付け所は天才的。
でも、部長の話を聞いていて、本当にその通りだと思った。
客が多いから安易に成功とは限らない。
私たちが心を込めて演奏して、それの気持ちが何人のお客さんに届くのかが、このコンサートの勝負なのだ。
そう思うと、自ずと心が引き締まった。





