表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
749/820

道④

 いよいよイヤーエンドコンサートの日がやって来た。

 場所は桜木町の駅を降りて、毎年みんなで初詣に行く伊勢山神社のすぐ手前の、県立音楽堂。

 客席数は1,054席もあるので、いくら料金を取らないと言っても、この忙しい時期に半分でも埋まってくれればいいのだけど……と、自分たちの音楽よりお客さんが何人入るのかが、みんな気になっていてソワソワしてしまう。


 もちろん、私も流されて気持ちがナカナカ集中できない。

 外に用事だと言って出ていた住之江部長が戻って来るなり、そんな雰囲気を察して皆の前に立った。


「みんなお客さんの入りが気になっているようですが、今回のコンサートは観客からお金は取らないから1000人来ようが10人来ようが、儲けはない。むしろ1000人も来られたらコンサート後の後片付けが大変になります」


「何を言い出すのかと思ったら、いつものブレブレね」


 私の隣で滝沢さんが、そう小声で言って笑った。


「でも、重要なことを忘れてはいけない。何人来たとして、そのうち何人に私たちの音楽を届けられるかということ。たとえ客が1000人来たとしても、誰も感動させられなかったらそのコンサートは失敗です。もしたった一人しか客が来なくても、その人が感動してくれれば、そのコンサートは大成功です。音楽は感性!私たちの仕事はその感性を届けることなのです」


 いつものように、なんとなく良い事を言う住之江部長だけど、話しの後半ぐらいから少しだけメンバーがざわついていたのが気になった。


“せっかく部長がいい話しているのにね……”


 隣の滝沢さんに小声でそう言うと、その滝沢さんが小さく指さして答えを教えてくれた。

 指さされたその先を、よぉ~く見ると。


“あらヤダ!社会の窓が半開きじゃない!”


 相変わらず、住之江部長のこの緩急の付け所は天才的。

 でも、部長の話を聞いていて、本当にその通りだと思った。

 客が多いから安易に成功とは限らない。

 私たちが心を込めて演奏して、それの気持ちが何人のお客さんに届くのかが、このコンサートの勝負なのだ。

 そう思うと、自ずと心が引き締まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ