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道②

 桜木町から電車に乗り、ずっと車窓に写る夜の景色を見ていた。

 いつも、ぼんやりとして過ごしているうちに、みんなは道を進んでいるのだなと思って見ていた。

 江角君も私に並んで外の景色を見ている。

 江角君はいま、どんな気持ちで、この暗い街並みを見ているのだろう。

 私と同じ、不安な気持ちを抱えて見ているのだろうか?

 それとも、違う気持ち?

 黒い鏡のようになった窓越しに、その顔を覗くけれど、いつものクールなままの目でただ外を見ている。


“酔ってみたいな……”


 急に、そんな気がした。

 お酒に酔っていれば、こんな私だって、今急に江角君に抱きついて甘えることも出来るだろう。

 時計を見た。

 時間は、8時を少し過ぎたところ。


「ねぇ、里沙ちゃんのお店に寄っていかない?」


「いいけど、帰りが遅くならないか?」


「少しだけだから、大丈夫。それより江角君は大丈夫なの?」


「俺は、大丈夫だけど……」


 電車を降りて、家のある方と反対の改札を抜けて、里沙ちゃんのお店に行った。

 いつの間にか“茂山さんのお店”と呼んでいたのが“里沙ちゃんのお店”に替わっている。


“カランカラン♪”


 入り口の扉を開けると、乾いたカウベルが鳴る。


「やあ、いらっしゃい」


 茂山さんに声を掛けられると、奥から直ぐに里沙ちゃんが来てくれた。


「あら、千春、それに江角君も。いらっしゃい。今夜はデートだったの?」


 思ったことをストレートに言うのは昔からだったけれど、子供が生まれてからの里沙ちゃんは、それが更に加速した気がする。別に嫌じゃなくて、それが里沙ちゃんの進化系だと思うと、逞しくさえ思えて微笑ましい。


「何にする? 紅茶? それともジュース」


「カシスサワーを頂くわ」


「じゃあ俺はハイボールで」


 里沙ちゃんはニコッと笑って「ハイ」と言って奥に行った。

 恐らくお酒を殆ど飲まない私が、お酒を注文したことに驚いたのは知っている。

 だけど、それを言葉や態度に表さなくてスルーしてくれたのは、里沙ちゃんのおもいやり。

 店内に流れる落ち着いた雰囲気のジャズのメロディーを聞きながら、二人でお酒を飲んだ。

 話は日常的なものや、クリスマスコンサートについて。

 江角君は、私の飲むペースに合わせて飲んでくれているけれど、私は半分飲んだところで酔いが回って来て飲めなくなったことを告げると「俺も」と言ってグラスを置いた。


 それから、お店を出て、江角君が家まで送ってくれた。

 フラフラする私の体を確りと支えてくれる江角君の大きな体。

 酔いに助けられて、久し振りにその広い胸の中に飛び込んだ。


「好きです……」


 そう言って江角君を見上げると「俺も……中三の時の気持ちは変わらないよ」と暖かい唇が私の唇を塞いでくれた。


“中三の時の気持ち――それは吹奏楽コンクール県大会の演奏が終わって居なくなった江角君を探していた時に、初めて告白された日”


 道は進んでばかりじゃない。

 チャンと経路を覚えているのだと思い嬉しくなって、更に強く抱きしめてもらえるようにしがみ付いていた。


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