高い山に、碧い空㉑
自分の駄洒落に気が付いたロンがむっくり起き上がり、笑っている私に「なんで笑っているの?」ってしきりに聞いて来る仕草をする。
それが可笑しくて更に笑っていると、ついに業を煮やしたのか私に襲い掛かるように乗っかってきた。
「もう、ロンったら危ないじゃないの」
私がそれに構って動くとカヌーが揺れ、それを見た江角君がまた笑う。
「そんなに元気なら、ロンも泳いできなさい」
そう言って背中をポンと叩いてやると、元気よく水の中に飛び込んだ。
ロンは犬の中でもかなり身体能力が高い。
走るのは早いし、塀だって私の方の高さくらい迄だったら器用に前足を掛けて越えてしまう。もちろん泳ぐにも上手い。
江角君の漕ぐカヌーには追いつかないけれど、私が漕ぐと一緒に着いて来る。
「やっぱりロンは鮎沢のことが本当に好きなんだな」
「えっ、どうして?」
「だって、ほら。俺が漕いでも普通に泳いでいるだけだけど、鮎沢が漕ぐとチャンと鮎沢の顔を見ながら遅れないように付いて来るだろ」
「え~っ、そうなのかなぁ?」
江角君の手前そう答えたけれど、ロンは屹度その通りだと思う。
漕ぎながらロンの目を見ていると、ズット私の目を捉えて離さない。
と、言う事は、私もズットロンを見ているって言うことだよね。
こんなのって江角君にはバレバレだと思うけれど、もしもロンに何かあったときに、ほんの一瞬でも目を離していたら取り返しがつかないから……。
でも一番目が離せないのは、可愛いからって言うのも大きな要素なのだけど、これはナイショ。
でも、直ぐに分かっちゃうね。
岸に着いて、ロンを迎えた。
足がつく深さになると、小躍りするように跳ねながら走って来た。
びしょ濡れになるのは分かっているけれど、他を広げて迎えてあげる。
でも、ロンはいきなり飛びついては来なくて、私の1メートル手前で急に立ち止まり、体をブルブル振って水を散らせてからおとなしく私の手に触れて来てくれた。
濡れた体をタオルドライして、江角君と三人で湖畔を散歩しながら、空を見上げていた。
来年再来年、更に十年後二十年後、私はどこでどんな風にしてこの碧い空を見ているのだろう。





