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高い山に、碧い空⑲

 ホールを出て外国人墓地の前を通ると閉まっていた。


「へぇ~外人墓地って平日は解放されていないんだ、残念」


「そうなの、資料館は平日の月曜日以外なら入れるのだけど、墓地の中は観覧できる時期の休日と決まっているの」


 お墓だからいつでも入れると思っていた。

 私たちは外国人墓地の前を右に曲がり、海の見える丘公園に向かった。

 森に囲まれた高台にある公園。

 海と空、そして太陽の光と風が良く似合う。

 海の見える丘公園から見える海は、遥か見渡す限りの大海原ではない。

 山下公園と横浜マリンタワー、高速道路の橋や港にある大きなクレーン、それに街並み。

 大きな海と小さな人間たちの境界線。

 広い土地を求めて、ほんの少しだけ海に飛び出した街。


「気持ちいいねー」


 京子ちゃんが、爽やかに吹く海に向かって行った。


「風に誘われて、遠くの国に行ってしまいたくなるね」


 海は離れた大陸と日本を繋ぐ。

 空は、世界全体を包み込む。

 そして風は何年もかけて、世界中を旅する。


「あのね、わたしドイツに行くことにした」


「ドイツかぁ~……。えっ!?なんで??」


「ドイツで本格的に演奏の勉強をするの。先生から薦められて迷っていたけど、今、行くことに決めた」


「いま?」


「そう、いま」


「どうして?」


「だって、千春がイチイチ感動してくれるんだもの」


 たしかに今日は京子ちゃんと一緒に散歩をして、凄く近くに素敵な大学が有ったり素晴らしいホールを見たり、そしてこの海にも感動しているけれど、それが何故京子ちゃんの留学の決め手になったのだろう?


「何を見ても、ただ誰かが作ったものだとか、ただの地形として見るだけでは感動も薄いでしょ。ロンと一緒に来れたらいいなとか、こんな所で演奏してみたいとか、自分や身近な人と行ったらって想像するから余計に感動すると思うの。私は、あのホールで千春を感動させてやりたいと思ったの。小さな日本の小さな海を見て、大きな海を渡り、小さな街で勉強したい。そして今度は大きな空に乗って風のように帰って来るの」


「いつ行くの?」


「先生からは、12月中旬には返事を下さいって言われていて、行くとしたら今度のクリスマスコンサートが終わって、正月明け……ねえ千春、頑張って帰ってきたら、ロンと一緒に私の演奏聴いてくれる?」


 私は「うん。喜んで」と答え笑った。


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