表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
740/820

高い山に、碧い空⑰

 珍しく京子ちゃんが昼練習に来ていた。


「あれっ今日学校は?」


「1時限だけで終了です!」


 そう明るく言って、敬礼する真似をしてみせてくれた。

 京子ちゃんは違う大学なので、詳しくは分からないけれど、なんとなく無理がある気がした。


「ねえ、千春は今日午後の講義が無い日でしょ。たしかバイトもなかったよね。なんか用事ある日なの?」


「う~ん……なんにもないよ」


 本当は、こっそり医学部のキャンパスに遊びに行ってみようかと思っていた。

 確定ではなかったので、まだ江角君には伝えていなかったけれど、行く前に連絡しておこうと思っていた。


「じゃあ、このあと家に来て!――あっ、ゴメンなんかマズイかな……」


 すぐに返事をしなくて京子ちゃんに気を使わせてしまった。


「ううん。なんか久しぶりだなぁ~って思って、京子ちゃんの家に行くの」


「やったぁー!」


 京子ちゃんは喜んで、私に抱き着いて来てくれた。

 そして、その光景を住之江部長が偶然見ていた。


「部長。――住之江部長!?」


「ん?な・なに横溝さん」


「鼻血、出てますよ」




 京子ちゃんの家は山手の高台にある高級住宅街の一角にあり、直ぐ近くには京子ちゃんの通っている大学と、その先を南に行くと観光地がありそこからは広い海が見える。

 私の家も、こんなところにあればロンとのお散歩ももっと楽しいだろうな、っていつも思う。


「おじゃましまーす」


「あら、鮎沢さんいらっしゃい。いつも京子と仲良くしてくれてありがとう」


 京子ちゃんに似た、綺麗なお母さんに挨拶された。

 二階に上がり部屋に入る。

 前に来たときは“血みどろ”の部屋だった。

 京子ちゃんは、双子のお姉さんと、自分の愛犬を同時に交通事故で亡くした。

 そして、ここに居ることに耐えられなくなって九州の女子高に進学した。


 でも、今は違う。

 この家に戻って来て、こうして明るい笑顔を見せてくれる。

 二年前に見えた影も、もうない。


「ところで、どうしたの?」


「ううん、なんにもないよ。ただ久し振りに千春を独占して観たくなっちゃって」


 そう言ってニッコリ無邪気な笑顔を見せてくれた。

 しかし、その笑顔のなかに、ほんの少しだけ嘘が混ざっている気がした。

 悪い嘘ではない。

 言ってみれば、さっき大学で京子ちゃんに誘われた時、私が言わなかったことと同じもの。

 大学の事とか、部活の事やバイトの話を楽しくしながらも、京子ちゃんが胸の奥からナカナカ出せないでいる塊が気になっていた。


「ねえ、今日はお天気が良いから散歩しない?」


 屹度、ここに私を連れてきて打ち明けるつもりだったのに、その勇気が出てこないのだと思って誘ってみた。


「いいよ。どこ行く?」


「そうだなぁ~。先ず京子ちゃんの大学を見て、それから丘の上から海が見たい。それに空も」


「観光コースだね」


「うん」


 そう言って、二人で外に出た。

※京子ちゃんの過去については『月のなくなった夜』https://ncode.syosetu.com/n9464ec/523/

に記載してあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ