高い山に、碧い空⑭
最後のバンドは『Out of Date』神奈川県を中心に10年も活躍しているベテランで、今夜はこのバンド目当てに来ている人が多かった。
さすがに10年もバンドを続けていると、舞台の仕切り方が上手くて、私たちがやっていた吹奏楽とは全く違う。
音楽的に、良い物を届けるという姿勢は全く同じ。
違うのは、その届け方。
吹奏楽とかオーケストラと言うのは、好きな人がチャンと聞く姿勢になったところへ音楽を届ける。
そういう意味では、甲本君たちの『ブルーSKY』も、その前に出て来た二組も、まだその流れを引きづっている所がある。
でも、このバンドは違う。
最初ステージに上がって来たときはモヒカンの酔っぱらいみたいで、少し怖い感じがしたけれど、そのふら付き加減がもう落語などで言う“つかみ”になっていてグイグイ客を自分たちの曲に引き込む導火線ようになっていた。
私は中学・高校。そして大学と音楽を続けてきているので、舞台でのキャリア自体は似たような年月なのかもしれない。
でも、それは部活動だし、自分たちで何もしなくても父兄とか関係者など多くのお客さんが集まる大会がメイン。
高校のミニコンサートと、大学のオーケストラ部だけは自主的な活動で、自分たちでチラシやポスターを作ってお客さんを集めるけれど、そこには必ず“学校名”という巨大なバックボーンが付いている。
だからお客さんにとっては「先輩や後輩のコンサート」であり「あの学校の生徒さんのコンサート」で、いわば素性の知れた人間、必ず安心して観れるものなのだ。
しかし、私はこの人たちを知らない。
もしも街を歩いている時に「俺の歌を聞いてくれ」と急に言われたら、悲鳴を上げて逃げてしまうかもしれない。
だって見ず知らずの男性というだけではなくて、このボーカルの人なんて金髪でモヒカンで革ジャンで、しかもお酒が入っているのだから。
じゃあスーツを着たサラリーマン風なら良いかと言われれば、それも違う。
スーツという安心感こそあるけれど、スーツなんて誰でも着れるし、髪型だって自由に変えられる。
有名な会社に勤めているからとか、公務員の偉い人とかと言うのも“肩書”であって決してそれが本人を表しているのではない。
それよりも、この人たちにはもっと凄い“事実”がある。
大好きな音楽を10年以上も続けているという事実。
会社が休みの日に、たまに流行りの曲を練習するのではない。
自分たちの好きな曲を作り、それを聞いてもらうために活動しているのだ。
なんとなくだけど1年くらいなら私でも出来るかもしれない。
でも、そんなに長くは続けられない事は私でも分かる。
学校を卒業して、好きなことをとことんやるためには、他の好きなことを犠牲にしなくては続けられない時が何度もやってくるはず。
それを乗り越えて……いや、乗り越えるだけでなく、今日であったお客さんと一体になって自分の好きなものを届ける努力をし続けているのだ。
大きな音楽事務所からの誘いを断ってまでライブ活動を始めた甲本君も屹度この人たちを見て、この人たちのようになりたかったのだと今夜初めて思った。





