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高い山に、碧い空⑫

 お食事はコンサートが始まる前まで、そしてチケットにはワンドリンク引換券が付いていて、その提供は開始前と中休み、そしてコンサートの終了後と決められている。

 今夜は甲本君のバンドを含めて4グループ。

 甲本君は3番目に出場する。


「千春―!ドリンクどうする?」


 カウンターから里沙ちゃんが聞いてくれる。


「中休みに頂くわ」


「高橋はー?」


「私も鮎沢先輩と一緒に」


「OK!」


 高橋さんは、里沙ちゃんにそう言うと「手を握っても良いですか」と聞いてきたので「いいよ」と答えて、私の方から握ってあげた。


「高橋さん、準備は良いの?」


「はい。今日私出ませんから」


「なにか有ったの?」


「地元だとまだ恥ずかしくて……。それに今日は鮎沢先輩と一緒に見たくて」


 甲本君はそれでいいと言ったのだろうか?

 なんとなく二人の関係が、気になった。


「あっ、甲本なら大丈夫ですよ。あの人、私に凄く優しいですし、それに今日はスペシャルゲストを入れるのでダブルドラムはお休みです」


 いつもながら、私の考えていることは筒抜けなのが情けない。


「おまたせー! あら、仲いいじゃん」


 里沙ちゃんがやって来て、手を繋いでいる私たちを見て隣に腰掛けた。


「立木先輩はこれから令夏ちゃんにベッタリでしょうから、そのあいだ鮎沢先輩は私のものです」


「とうとう正体を現したわね。この、ツンデレ眼鏡!」


「先輩、その言い方酷すぎます。ツンデレも眼鏡も一応は認めますが、一緒に言わないでください」


「ふう~ん、ツンデレだったんだ」


 私がそう言うと「嫌ですよ鮎沢先輩まで」と、そう言って腕を絡めて引き寄せられた。

 私が高橋さんの方に傾くと今度は里沙ちゃんが、私のもう片方の腕を取って「マダマダ千春は渡せないよ」と引き返した。

 するとまた高橋さんが「立木先輩ズルいですよ。結婚して赤ちゃんも居るのに、そのうえ鮎沢先輩まで独り占めしようだなんて、許しません」と言って引き返す。


「高橋だって、甲本いるじゃん」と今度はまた里沙ちゃんが引き「甲本+鮎沢先輩を得てこそ、2対2のイーブンです」と、高橋さんがまた引き返す。


 何度かそれを繰り返していたら、前の人が振り返って「しーっ」と人差し指を口に当てた。


「すみません」


 私が慌てて謝ると「今はまだ良いですけよ。でも、もう始まりますから」と、正面を指差した。

 差された先には、このコンサートの主催者であり店長でもある茂山さんが緊張した面持ちでマイクを握りしめていた。

 その姿は緊張感丸出しで、ズボンの中で隠れて見えないけれど、足がガクガク震えているのが簡単に想像できる。


「頑張れ、父ちゃん!」


 里沙ちゃんが茂山さんに応援の言葉を飛ばす。

 茂山さんは、一瞬ニッコリして私たちに手を振った後、急に出始めた汗を拭いだす。


「まったく、図体だけ人並み以上に大きいのに……」


 と、ぼやく里沙ちゃん。


「あそこは小さいんですか?」


 と、聞き返す高橋さん。

 その間で戸惑ってしまう私。


「こら高橋!先輩を揶揄うな!」


 どうやら、高橋さんの言葉は、私を赤くするために言われたものだったらしい。

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