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高い山に、碧い空⑨

 日曜日、久し振りに瑞希先輩がマリーを連れて家に遊びに来てくれた。

 この前、ハンター邸のコンサートで一緒に演奏はしたけれど、こうしてゆっくり会うのは、久し振り。

 年が経つにつれて、だんだん会って話をする回数が減っている。


「久しぶりぃー。元気してたぁ?」


「うん、元気だったよ。先輩は?」


 だから挨拶まで自然に、こんな感じになってしまう。

 もう、昔どういう挨拶を交わしていたかさえ咄嗟には思い出せない。

 そのうち親戚の叔母さんみたいに“まあ、随分見ないうちに綺麗になって” なんてことでも言いだしてしまいそう。

 そんな、少しよそよそしい挨拶から入って行った私たちとは裏腹に、ロンとマリーは久し振りの再会をものともせず大喜び。

 特にマリーはロンのお腹の下を潜ってみせたり、喉に噛みつく素振りを見せたりして、最初の状態から次第におとなしさを取り戻しつつあるロンを挑発している。


「ええい!こざかしい!」


 と言わんばかりのロンに襲い掛かられると、直ぐにお腹を見せてはぐらかす懐かしいポーズも健在。


「相変わらずマリーが遊びの主導権を握っていますネ」


「それはロンが優しいからよ」


 二人でそれを見て笑った。

 二匹を連れて部屋に上がると、マリーが急におとなしくなって横になるロンの傍にくっつくように、同じ姿勢になり微笑ましい。


「この前のコンサートよかったね。あのあとチャンと江角君とは話せたの?」


「はい。相模湖までドライブに連れて行ってもらいました」


「なら良かった」


「すみません。心配してもらって」


 瑞希先輩が、謝る私の顔を見てクスッと笑い、マリーを見る。

 見られたマリーは「なに!」と何故か期待した目を向けて首を起こし、耳を立てた。


「千春も江角君もロンに似ているのかな?」


「ロンに?」


「だって、ロンは大体が相手の気持ちを敏感に探り当てて、それに倣うでしょ。決して我儘な態度は取らない」


 確かにロンは、決して我儘ではない。


「でもね、ロンはその敏感な五感を駆使して、本当の気持ちを掴んだ上での行動よ。それに比べて千春は自分のことどう思う? 相手の気持ちが確り分かった上だと思う?」


 言われる通り、私は相手の気持ちが分かっているわけではなく、ただ推測しているだけ。

 犬は凄く賢くてよく使う言葉を理解するだけでなく、その言葉の音程の微妙な変化や音量も正確に聞き分ける。

 その上、常に相手の心臓の鼓動を聞いているから、その鼓動の強弱や速さなどで感情の変化や体調さえも判断できる。

 勿論その恐ろしく敏感な嗅覚でも、汗の量とか口臭なども参考にしているから、人間のように表情や雰囲気だけで判断するのではなく、より科学的に分析されている。


「もっと自由気ままに甘えなさい。まあ江角君から甘えてくれればいいのだけれど、彼は一人っ子だから、そう言うのは苦手でしょうから。千春の方からチャンと甘えなさい」


「はい……」


 そう言って心配してくれるのは有難いけれど、足立先輩だけでなく瑞希先輩までも、なんで私のことを心配してくれるのかイマイチ分からない。

 先輩だから?

 いや先輩後輩だからって、プライベートな事、特に恋愛に関することは軽く話題にはなる程度だと思う。


「そうそう。人の恋愛の心配を何故するのか話してなかったよね」


 瑞希先輩が急に改まって、姿勢を正した。


「それは、あなたと遠い親戚になることを決めたからです」


“親戚って……一体なんのこと???”

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