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高い山に、碧い空⑧

 しばらく演奏していると、誰かが近づいて来る気配を感じて、演奏を止めた。

 動いている時は然程気にならないけれど、こうして寛いでいる時は緊張する。

 私の緊張を他所に、ロンったら気持ちよさそうに目を閉じたまま耳だけをピクピク動かせている。

 ロンの耳はとても良いから、もうその近づいて来る人の足音などで特徴は捉えているはず。

 それよりも私たち人間の100万倍~1億倍とも言われる並みはずれた嗅覚で、その人物が誰なのかも分かっているに違いない。

 なんて言ったって、オス犬は8キロ先にいるメス犬の匂いを嗅ぎ分けるのだから。


 そのロンが、こうして落ち着いているということは、私もそんなに気にする必要がないのかな?

 それとも、ロンは本当に寝ていて、気配に全く気が付いていない?

 喋らないロンは答えを教えてくれない。

 ロンの頬をそっと撫でる。

 夢で何か美味しい物でも食べているのか、口をクチャクチャと軽く開いたり閉じたり繰り返す。


“ロンったら、やっぱり呑気に寝ている!”


 そう思ったとき、まるで“よっこいしょ”と掛け声を掛けて起き上がるオジサンのように起き上がって、私の隣でお座りをした。


“ん?ほんとうは分かっていたの?”


 足音が近づいて来る。

 ロンは、その方向にむいてチャンとお座りをしている。


“……と、言うことは安心しても良いのかな?”


 背の高いススキやセイタカアワダチソウの間から、人が出て来た。


「ああ、やっぱり鮎沢先輩でしたね」


「今川さん。それに宮崎君も、でも良く分かったわね」


「オーボエの音色ではなかったけれど、なんとなく演奏の特徴で分かりました」


「今日は、二人仲良くお散歩?」


「はい。私の運転練習に付き合って貰って、今は小休止です」


 今川さんと宮崎君は中学・高校と一緒に吹奏楽をしていた後輩。

 家が隣同士で、なんと小さいときからズット一緒で、高校を卒業した今でも厚木にある同じ大学に通っている。


「ほらぁ、やっぱり電子楽器だったろっ!」


「あらぁ~、鮎沢先輩いつのまに?私はてっきりサックス買ったのかと思って聞いていました」


 今川さんが、そこまで言ったとき、宮崎君にナデナデしてもらっていたろんが急にワンと吠えた。

 振り向くと、真っ直ぐに今川さんを見ている。


「美人に撫でて欲しいんですって」


 ロンの口に出せない言葉を代弁してあげる。


「ありがとうございます。 でも先輩みたいな美人さんに飼われているから、屹度それは違うかもですよ。ロンは誰かさんみたいに他の女性に目移りはしませんから」


 そう言うと、宮崎君が「していない」と言った。


「どうだか?ねえねえ先輩、聞いてもらえます――」


「あーズルいぞ。俺の方こそ」


「駄目よ、あんた高校の時に鮎沢先輩にお熱上げていたんだから、先輩に近づいちゃダメ!鮎沢先輩にはちゃんと江角先輩が居るんだから、ロンと遊んでいなさい」


 宮崎君は、言われておとなしくロンと遊んでいた。

 今川さんの話を聞きながら、この二人のように幼いころからずっと一緒のカップルって言うのはどんなものなのだろうと思った。


 まるで姉弟のような他人。


 夫婦のようなカップル。


 そして、この先の二人はどうなるのだろう?


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