高い山に、碧い空①
「鉱ちゃん、今日はもういいわ」
「でも……」
「千春ちゃんが居るときくらい、のんびりしないと、ねぇ」
そう言って、夏花さんが私を見る。
「いえ、私は、そんな。いつもどおりしてくれれば、わ私、待ちますから」
焦ってしまって、言葉が、しどろもどろ。
「駄目よ。医者は忙し仕事なんだから。千春ちゃんは将来医者の奥様になるんだから“今日は私と遊びなさい!”ってチャンと言えるようでないと。じゃないと紘ちゃんずっと忙しままで、神経まいっちゃうよ。無理してでも休ませる。チャンと遊ばせる。ちゃんと旦那さんをコントロールしなくちゃ」
「夏花さん、俺たちは――」
江角君が困った顔をして、夏花さんを見て名前を呼ぶ。
「あら!?違うの??」
「いや……その……なあ」
「あっ、ハ、ハイ……えっと……そのぉ――」
「あらやだ。紘ちゃんったら、いつも千春ちゃんの話をするし、しんどい時も千春ちゃんの名前出したら直ぐに元気を取り戻すから、てっきり私は……まっ、いっか」
そう言って、照れ笑いする夏花さん。
「「よくないです!」」
なぜか江角君と同時に、同じ言葉を同じトーンで出していた。
「ほら、やっぱり」
それを聞いて、夏花さんが、冷やかそうとした。
「「違います!」」
今度もまた、一緒に言ってしまい驚いてお互いの顔を見合わせた。
その光景を見て、夏花さんが「まっ、いいから今日は解散って事で宜しく」と言って事務所に引き上げた。
しばらく見つめあっていた。
こういう時の、時計の音はいつもより大きく、そして遅く感じる。
そのうち、その時計の音に驚いたように江角君が「じゃっ、着替えてくる」そう言って、二階に上がっていった。
ロビーには私一人。
さっきみんなで演奏していた時には、沢山の人が居た。
そして、今は、私一人。
待合の椅子にポツンと座ると、何故かそれが不思議なことに感じてしまった。
「夢なのかな?」
どっちが?何が?何も分からないけど、そんな気がしてしまった。





