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令和⑥

 二週続けて可愛い赤ちゃんを見たからなのか、妙に江角君に会いたくなってしまった。

 大学に入った一年生の時は、お互いに時間が有ったので良くデートしたけれど、二年生になって江角君が医学部のキャンパスに移った頃からナカナカ遊べなくなった。

 まともに顔を合わすのは、部活の時と、その後の帰りの電車の時くらい。

 土曜日はハンター邸の夏花さんの病院に行けば会えるけれど、二回ほど会いに行ったけれど、結局お仕事の邪魔になると思って、それ以降は行っていない。


 最近学校以外で会ったのも、三ヶ月前に里沙ちゃんの出産のお祝いに皆で行ったきり。

 恋人同士って、こういう風に疎遠になって、自然消滅的に別れてしまうのかな。

 なんて思うことも最近多くなってしまった。


“はぁ……”


 夜の散歩のとき、いつものベンチに座って俯いていると自然にため息が零れてしまった。

 ロンが私の顔を見ながら、しきりにお手とお替りを繰り返す。


「どうしたの?」


 珍しい仕草をするので聞いてみると、背筋を伸ばすようにして首を上げていた。


「なあに?わかんないよぉ……」


 少し泣きそうなのを我慢してまた聞くと、ロンはまたお手とお替りをして、さっきと同じように背筋を伸ばして首を上げる。


“上に、なにか気になるものでもあるのかしら?”


 そう思って、上を見上げると、そこにあるのはいつものように星たちが煌めく空。

 昼間に少し風があったせいか、キラキラと輝いていて、いつもより綺麗な気がする。


“いつもより!?”


 ……そう言えば、散歩の途中で夜空を見上げるのは久し振りのような気がする。

 ベンチに座っても、すぐ下を向いてしまっていたし、そのベンチで休憩することを忘れてしまったことも何回かあった。


「きれいねー♪ お山のキャンプ場で見たときの星みたい」


 ロンにこの星が見えているのかは分からない。

 でも屹度、ロンは私にこの夜空を見せたかったのだと思う。

 いつもの私が、そうしていたように。


 翼端燈を点滅させて悠々と飛んで行く飛行機。


 願いを届けられるのを嫌がっているように、急に表れて、急いで消えてしまう流れ星。


 のんびり夜の海を漂う雲。


 そして肌をくすぐる風。


 夜の中に居る私たちを暖かく照らす、お月様。


 はてしなく大きいものに包まれている自分を感じた。

 私もロンも、その大きなものの流れに沿って漂っている。

 ゆっくりと、漂っていることを忘れてしまうくらいゆっくりと。

 そして自分が動いていることさえも、信じられないくらい早く。

 この雄大な流れの中で、私が悩んでいたことは、なんてちっぽけな事だろうと思った。


 ちっぽけで、すごく大切なこと。


「ありがとうロン」


 ロンのおかげで何かを気づくことが出来た。


 それが何かは、今はまだ分からないけれど。


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