令和③
そして土曜日はお母さんと一緒に家の大掃除。
掃除機をかけて、家じゅうコロコロを掛け回り、そして拭き掃除。
拭き掃除が終わると、またコロコロ。
お風呂の時もロンの毛は沢山抜けたけれど、次の日も結構抜けるので、入念にブラッシング。
そうは言っても、あまり強くし過ぎると皮膚を傷めるので適度に軽くやる。
犬や猫は皮膚を沢山の毛で守られているので、人間のようにゴシゴシすると炎症を起こしやすい。
だから今日は柔らかいブラシを使って暇さえあれば、軽くブラッシングして、そのあとは必ずコロコロ。
正直疲れるけれど、しょっちゅう優しく撫でてもらっているロンはご満悦。
もちろん私も、いつもよりフカフカで、ほのかにリンスの好い香りのするロンがペタッと寄り添ってくれて幸せ気分満開。
夜はまだ冷えるので、その日は久しぶりにロンをベッドに誘って一緒に寝た。
どんな毛布よりも暖かくて、フカフカのロンは、誰と寝るよりも幸せな気持ちにさせてくれる魔法使い。
「でもね、私が一緒のお布団で寝たのは、子供の頃にお父さんとお母さんと寝ただけだからね」
一応そうことわって鼻先をチョンチョンと突くと、ロンは嬉しそうに口を開けた。
“口”
「いっけなーい!歯磨きを忘れていた」
私の事ではなくて、ロンの歯磨き。
慌てて一階に降りて、ロンの歯みがきセットを取ってくる。
私が歯ブラシを取ってきて床に座っても、ロンは大好きなベッドの上から降りてこない。
大嫌いな歯磨きと、大好きなベッドの上を天秤にかけて、好きなほうを優先させているのだ。
「おいで」
私がそう言って、正座した膝をポンポンと叩くと、渋々降りて来て私の膝の上に頭を置いて横になる。
「偉い偉い」
と褒めてあげる。
口を触ると、また渋々口を開いたので、親指をあごの奥に捻じ込んで口を押えた。
先ずは、少し濡らしたガーゼで歯茎や歯全体を軽くマッサージして、それから歯ブラシ。
前歯はそんなに嫌がらないけれど、奥に行けば行くほど気持ち悪いのか舌で押し出そうとしてくる。
でも歯は閉じない。
それは、私の親指があるから閉じてしまうと、私が痛い思いをするのを知っているから絶対に閉じないのだ。
嫌な事でも我慢して、こういう風に気を使ってもらえると本当に可愛いし、好きになる。
ロンがおとなしくしてくれたので、あっという間に歯磨きが終わり、褒めてあげたあと一緒に一階に降りた。
私は歯磨きセットの片付け。
そしてロンは、水を飲むため。
片付けが終わり階段の前にまで来ると、水を飲み終わったロンと階段の前で鉢合わせ。
「きれいになったかな。ハーしてみせて」
私が座って、そう言うとロンが口を開けてくれる。
クンクンと匂いを嗅いで「いい子だったね。とまた褒めてあげた」
ロンに限らず、犬は褒められるのが大好き。
たまに叱りながら躾をしている人を見かけるけれど、上下関係さえ確りと犬が理解していれば犬はそれでも一応は従う。
だけれど、叱られて育った犬は他人や上下関係が自分より下だと思った人の言うことは聞かないし、どうしても攻撃的な態度を取るようになってしまう。
犬は子供と一緒。
叱られると、委縮してしまう。
子供と違うのは、大人の人間も敵わないほどの身体能力を持っているということ。
体重30キロ近いロンが万が一野生に戻って本気で襲ってきたとしたら、私なんかアッという間に餌にされてしまうくらい強いのだ。
それなのに大切に育てているから、お口の中に私が指を差し込むだけで、嫌なことも我慢してズットお口を閉めないで開けっ放しにしてくれる。
一緒に階段を上って、一緒にベッドに入る。
ロンと見つめあい、頭を撫でながら言った。
「明日お兄ちゃんと美樹さんが赤ちゃんを連れてきて、みんなが赤ちゃんを可愛がって少し寂しい思いをさせてしまうかもしれないけれど、我慢してロンも赤ちゃんを可愛がってあげてね」
ロンは最後までしっかり私の話を真剣な目で聞いてくれた。





