表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
714/820

令和②

 この日曜日は、兄と美樹さんが家へ初めて令夏ちゃんを連れてくる日。

 ちょうど金曜日の講義が午前中だけだったので、住之江部長に理由を言って部活を休んで直ぐに家に帰った。

 部活を休む理由を言ったあと、住之江部長が少し顔を赤くしたのを変に思ったけれど、その時はなにも気が付かなくて電車に乗ってから気が付いて急に恥ずかしくなった。

 だって私ったら「今日はロンと一緒にお風呂に入る約束をしていますから」なんて、自分でも直球過ぎる。

 年頃の女性が、年頃の男性に言うには過激すぎる内容だ。

 でも何故だか、ロンの事になると自分の中では少しもエッチな気がしないのが不思議。

 だってロンとお風呂に入るのなんて、1ヶ月に一度の私のお楽しみだし、当然私は裸ではなくてチャンと水着を着ているから誰がどう見ても少しもエッチじゃないでしょ?

 そんなことを思いながら、駅から家まで足早に駆けて帰った。


「ただいまー!」


 今日は、お母さんはパートで居ない。

 玄関を開けると、一人でお留守番をしていたロンが大喜びしてくれた。

 一応“あっかんべー”をさせて舌と下瞼の血行の状態を確認して散歩に連れ出した。

 犬にとってお風呂は、かなり体力を使う。

 お風呂嫌いな犬の場合は、滑りやすい濡れた床で踏ん張ることもそうだし、嫌なことを我慢し続けることも精神的に疲れる。

 そして一番の問題は、濡れた体が十分に乾ききるまで体が冷えること。

 人間のように、お風呂で温まったあと直ぐにバスタオルで体を拭いて、乾いた新しい服に着替える訳ではない。

 言うなれば濡れたままの状態が長く続く。

 しかも全身フカフカの毛で覆われているから、人間に例えるなら服を着たままお風呂に入って、そのまま出てくるのと同じ。

 寒い日や、冬場なら風邪をひいてしまう。

 犬だって、同じこと。


 先に軽く散歩を済ませて、家に戻って入念にブラッシングした。

 ちょうどブラッシングしている間に、38℃に設定しておいたお風呂も沸いていた。

「じゃあ着替えてくるね!」

 そう言って頭をポンと撫でて二階に上がると、ロンはおとなしく階下で待っていた。

 昔は「着替えてくる」と言っても「待て」の指示を出さない限り着いて来ていたのに、いまではチャンと言われた意味を理解して待てるようになった賢いロン。

 でも私の本心としては、少し味気ない。

 若い頃のように「着替えてくる」と言って階段を駆け上がると、同じように嬉しそうに駆けあがって来たり、「待て」と命令しても私が部屋に入って見えなくなると、直ぐに二階に上がって来た。

 見えなくなると「待て」を無視していいと思っているのかなと思って、一旦部屋には言ったあとにピョコンと顔を出すと、階段の途中で止まってしまうのも可愛らしかった。

 そして結局、着替えている私の姿を嬉しそうに見ている姿も、実は少し好きだった。

 水着に着替え終わって一階に降りると、やっぱりおとなしく待っていた。


「行くよ!」


 囃し立てるように言うと、昔は小躍りするように跳ねまわったり、お風呂の戸を開けた途端お湯を張ったバスタブにダイブしたりしたのに、今ではご機嫌よさそうに着いてくるだけ。

 それでも、やっぱり可愛い。

 洗うのは大変だけど、こうして一緒にお湯に浸かると本当に幸せな気持ちになる。

 少しだけでも膨らんでいて起きやすいからなのかもしれないけれど、最近はお湯に浸かった時に私の胸に顔を置いて寛ぐところがすごく好き。

 昔は肩に乗せられていて、目を瞑って気持ちよさそうにするロンの顔は見られなかった。

 これは、ロンの成長とは関係なくて、私の成長した成果。


“すごいでしょ!?”


 シャンプーとリンスをした時も沢山毛が抜けたけれど、本番はこれから。

 バスタオルを敷き詰めた脱衣場で、大きいドライヤーを使いながら、体に着いた水分を大まかに取ったあと、軽くブラッシングしながら毛の奥のほうまで乾かす。

 そして全体が乾くまでブラッシングを続けると、縫いぐるみでも作れそうなくらいの量の毛だまりが出来る。

 あとはロンに日の当たるところで、ゆっくり寛いでもらっている間に、私はお風呂の掃除と脱衣場の掃除。

 それにロンを拭いたタオルの洗濯。

 土曜日ならお母さんも居るのだけれど、令夏ちゃんが家に来るのは日曜日。

 実は、お風呂で取れたロンの毛は全部じゃなくて、次の日まで大量に抜けるので今日やっておいたというわけなのだ。

 すっかり片付けを済ませた私は、そのままロンの隣でバタンキュー。

 結局夕方お母さんが返ってきて起こされるまで、二人仲良く身を寄せ合って寝ていました。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ