令和①
5月の終わりに美樹さんが待望の赤ちゃんを産んだ。
鮎沢家の初孫は、可愛い女の子。
「可愛い。抱っこしてみてもいい?」
「いいよ。でもまだ首が座っていないから、確りと手で支えてあげてね」
美樹さんに教えてもらった通り、ゆっくりと抱き上げると、小さな頭が支えた手の平に乗ってくるのが伝わる。
まだ自分を支えることもできない小さな体。
「名前、なににしたんですか?」
美樹さんは傍に居る兄と目を合わせて、優しく微笑むように「令夏よ」と、教えてくれた。
「妹の千春ちゃんが“春”だから、次に生まれてくる女の子は絶対夏だって、お兄さんが言って私もそう思ったの。それから令和の元号にちなんで“令夏”にしたの。元年生まれってこともあるし、レイカって外国でも通用しそうでしょ」
「うん。すっごくいい。“レイカ・アユサワ”なんか世界的な大会で令夏ちゃんの名前がアナウンスされているのが聞こえてきそう」
私がそう言うと、美樹さんがプッと噴き出して笑った。
「一緒ね。お兄さんも、おんなじことを言っていたわ」
「こら」
兄が、少し照れて美樹さんに注意をする。
いつもクールだとばかり思っていたけれど、美樹さんの前ではそういうことも言ったりするんだ。
そう思って兄を見て、また令夏ちゃんを見た。
令和と共に人生を歩き始めた令夏ちゃん。
いつもカッコつけているようにクールな兄を、デレデレのどこにでもいるパパにしてしまった可愛い赤ちゃん。
これから、一緒に生きて行こうね。
あと、退院して私の家に遊びに来たら、ロンとも仲良くしてね。
そして6月に入ると、今度は里沙ちゃんが男の子を生んだ。
どちらにも似ていて、活発そうな赤ちゃん。
「どんな名前にしたの?」
里沙ちゃんが答える前に、茂山さんが「千夏」と答えてくれた。
“千夏”悪くはないけれど、女の子の名前だと思ってしまい、どう返事を返せばいいものか困ってしまった。
「ほらね」
茂山さんが里沙ちゃんに言った。
「ちがうのよ、この子の名前は“和樹”千夏は女の子の時につけようと思って……」
いつになく歯切れの悪い里沙ちゃんの理由を茂山さんが教えてくれた。
「里沙ときたら男の子でも千夏にするって言い張るから、反対はしないけれど、この子とよく話し合って決めなさいって言ったら和樹になっていた」
「令和元年でしょ。だから、その一字をもらってこの子の名前として植樹したの。令和の時代と共にスクスクと大きく伸びて欲しいって」
親はいつも子供のためを思っているのだなというのを、同級生の里沙ちゃんを見て実感した。
気に入った名前を押し通さずに、子供のためを思って、その子にふさわしい意味を持たせた名前を付けてくれる。
そう考えると令夏ちゃんも和樹くんも、幸せだなって思った。
そして、今、急に気が付いたことが有る。
それは二人の赤ちゃんの名前を横に並べて、縦に読むと”令和”になるって事!
これって偶然にしては凄い!