潮騒⑮
成人式が過ぎ、梅の花が咲く二月も過ぎ、卒業・入学シーズンの本格的な春が来た。
オーケストラ部の住之江部長は、大学院に進んだので、そのまま部に残った。
お父さんの会社があるから全然余裕だと言っていた足立先輩は、お父さんの会社には入らないで大手の商社に事務員として就職した。
甲本君は念願のバンドを結成して、茂山さんのお店で月一回のライブを始めた。
野外ライブもしているけれど、昔のようなゲリラライブじゃなくて、チャンと届け出をして迷惑にならない所でしていて、甲本君も大人になったものだと感心した。
同級生が全員二十歳になったことで、いままでファーストフード店で集まってガヤガヤ話をしていたのが、いつの間にか居酒屋になってしまい帰宅時間も遅くなった。
もちろん経費も嵩むから、バイトの日にちを少し増やした。
「はぁ~疲れたぁ~」
今夜は飲み会で帰宅時間が遅くなった。
玄関に出迎えてくれたロンをギューッと抱きしめると、バタバタと暴れられた。
ロンはお酒を飲んだ私のことを余り好きじゃない。
「ねえ、お酒臭いから嫌いなの?それとも、もう20代になった私には興味がないの?」
“匂いもそうだけど、酔った千春はベタベタと絡み過ぎだから嫌なの!”
なんとなく、そんな声を返されたような気がした。
お酒、そんなに強いほうじゃない。
どちらかというと弱い。
ビールやウイスキーの味は、少し苦手。
それなのに、誘われると断らずに参加する。
「最近、江角忙しいみたいだな」
飲み会の席で誰かが言った。
そう。
江角君は、飲み会には殆ど顔を出さない。
そして、最近部活にも。
三年生で勉強が忙しくなったのもあるけれど、ハンター邸の夏花さんのところに通って簡単な手伝いをしながら勉強を教えて貰っている。
だから最近デートをすることもメッキリ少なくなった。
“私たち、このまま疎遠になって別れるのかなぁ……”
そんな不安から、酔いが解放してくれる。
「たらひぃむぁ~」
この日は、歩くのがしんどくて、タクシーで家まで帰った。
時間は夜の11時過ぎ。
「まあまあ、千春。お付き合いも程々にしないと」
お母さんからの、いつものお言葉。
そして、ロンが私のことをジッと見ていた。
今日のロンは、何か変。
ウェルカム的な雰囲気じゃない。





