潮騒⑦
「こんばんは、鮎沢さん」
「あっ、こ・こんばんは」
AKIRAさんに名前を呼ばれて、びっくりしてしまった。
「歌、お上手ね。良かったわ」
「い、いえ……」
恥ずかしくて、超上がってしまう。
「それで、話をまた戻すと」
そう言って大田原さんは話を続けた。
結婚しこの時にも撮影しながら良い曲だと思っていた。
でも、これは“場の雰囲気”という効果もある。
ところが式が終わって家に帰り、改めて聞いてみると、最初の印象以上に良いと感じてしまった。
だから、誰でも見ることのできるWEB上に張り付けた。
その際、少しだけピントをボケさせて、個人を知っている人以外には、分かりにくくする加工を施した。
それでも、動画を上げて直ぐに茂山さんに連絡して、それで1日経ったら削除するつもりだった。
ところが、1日経っていざ削除しようと思ったとき、そのアクセス数の多さと沢山の感想を読んで驚いた。
第一線を退いて、今は非常勤の相談役。
久し振りに、現役時代の音楽プロデューサーとしての血が騒いだ。
「そして、事務所に行ってAKIRAに聞いてもらったんだ。そしたら既に彼女も知っていて“会ってみたい”って言うものだから、急遽この席を設けてもらったと言うわけ。どう、うちに来てやってみない?」
「一緒に頑張りましょう」
なんで、こんなことになるのか分からない。
これは、本当の現実なの?
ひょっとしてドッキリ?
なんとなく里沙ちゃんなら仕掛けそうかも……。
「本当なら、強引にスカウトしたいところなのだけど、昔から世話になっている茂山君の息子さんの友達で、そのお嫁さんの親友だからユックリ考えてほしい」
「そう、だから私の歌でも聞きながら、考えてみて頂戴」
そう言ってAKIRAさんはステージに戻って行った。
思ってもいなかった世界からの誘い。
テレビ好きのお母さんに言ったら、屹度大喜びしてくれるのは間違いない。
だけど……。





