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里沙ちゃんの結婚⑳

 夜、いつものようにロンとの散歩。

 おいてけぼりの件、もうロンはスッカリ忘れてしまったように許してくれた。

 もしかしたら、本当に忘れてしまったのかも知れない。

 そう思わせる。

 でも私は知っている。

 この子たちの記憶が確かなことを。

 もう一度、同じような場面に出くわしたとき、また“おいてけぼり”に、されるのではないかと思い出す。

 普段の些細なことは構わない、大らかな性格だから私たちは犬や猫は頭が悪いと思ってしまう。

 でも実際は、危険なことや大切なことは必ず覚えているし、地図や道路がなくても家に戻ることが出来るし、喋らなくても相手の感情を読み取ることもできて思いやることもできる。

 もちろん漢字も書けないし、難しい計算もできないけれど、人間に比べて決して頭が悪いわけではない。

 使い方が違うだけなのだ。

 いつものベンチに腰掛けて、ロンを撫でながらそう思っていると、珍しくロンが急に首を伸ばしで遠くの暗闇を見ていた。

 一瞬ドキッンとした。

 だって、こんな夜中に誰もいない公園、若い女性が一人。

 ロンの散歩が目的だけど、そのためにロンは私のボディーガード役も兼ねている。

 運動能力の優れたボディーガード。

 体も大きい。

 もしも私に何かあった時は、絶対守ってくれるはず。

 でも、そんな場面に出くわしたことは、ない。

 ロンが立つ。

 でもこれは、好きな時の反応だ。

 案の定、暗がりの中から現れたのはラッキーと足立先輩。


「ごめーん♪びっくりしたでしょう」


 ラッキーにグイグイ引っ張られて、のけぞるように走ってくる足立先輩。

「どうしたんですか?」


「いや、ロンが拗ねてないかと思って」


「拗ねましたよ」


「あー……やっぱり。ごめん」


「先輩こそ、どうしたんですか?」


「いや、うちの子も拗ねちゃって。ほら、自分は連れて行ってもらえなかったのに、私がロンの匂いをつけて帰って来たでしょ。しかも沢山。それで、この子なりに考えたみたいよ。千春が偶然ロンを連れてきて私が遊んだのではなくて、結婚式の帰りに私がロンといっぱい遊んできたこと」


「鼻が利くもんねー♪」


「一応、ご機嫌は直ったみたいなんだけど、もしかしてロンも拗ねているかも知れないと思って」


「ご機嫌取りの、総仕上げですね」


「っま、そんなとこ」


 そうして、二人と二匹は仲良くベンチに座って、一緒に星を眺めていた。


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