里沙ちゃんの結婚⑲
江角君にキスをしてもらって家まで帰る。
「おかえりー♪里沙ちゃんの結婚式、どうだった!」
家に入ると直ぐに、お母さんが迎えてくれた。
「とっても綺麗だったよ、それに幸せそうだった」
「そう、良かったわね」
お母さんが、自分の事のように喜んでくれたのが嬉しかった。
そして、その後ろからノソノソと上目遣いでやってくるロン。
いつもと雰囲気が違う。
屹度、自分だけ先に返されたことが不満なのだろう。
ロンは私の傍まで来ると、面倒臭そうに匂いを嗅いで、また上目遣いで私のことをジッと見つめる。
結婚式のあと、いつもの河原で江角君とキスしてきたこともバレた。
一通り匂いを嗅ぎ終わったロンは、そのまま玄関で横になり首だけ私に向けて、まるで拗ねた子供みたいな顔。
直ぐに寄り添ってあげないといけないけれど、今は結婚式に来ていったドレスのままだから、慌てて着替えて玄関に戻り足が止まる。
ロンは寂しそうに私を振り向かずに、玄関の向こうに顔を向けたままで、それは詰まらないというオーラ丸出し。
昔のロンなら“なんで僕のこと放っておいたんだよぉ!”と責めかかってきたはずなのにと、その姿に歳を取ったことを感じてしまった。
「ごめんねロン」
近づいてロンの傍に座り、なでなですると“いいよ……”と、おとなしく私の手をぺろぺろ舐めてくれるけれど、落ち込んだ気持ちは全然言えていないようだ。
仕方がないので、横に寝転がって顔を近づけると、嫌というように離されてしまった。
家に来て、もう10年目。
確かに歳を取った。
それでも寂しがり屋の甘えん坊さんのまま。
諦めずに撫で続けていたら、逆向きに横になり背中を向けられた。
年とともに頑固になるのは人間と同じ。
でも、悪いのは私。
結婚式の間中、きちんとロンに向き合っていなかったから。
ロンはその間中、いい子で居るために頑張っていたのに。
それなのに私は、帰りに江角君とイチャイチャして来てしまった。
仰向けになり天井を見つめる。
私には江角君もいるし里沙ちゃんもいる。
それに足立先輩の他にも沢山の友達が居て、おまけに家族も。
だけどロンに居るのは家族だけ。
ラッキーやマリーにしても、結局私が連れて行ってあげないと自分一人で好きな時に好きなだけ一緒にいることはできない。
そう思うと、もっと大切にしてあげられなかったのだろうかと自分を責めた。
いくらロンのためにしてあげられたとしても、結婚はできない。
できるのは、嫁ぎ先に連れて一緒に住むことくらい。
もしも、私がどんなに好きだとしても、相手の人がそれを許さなければ私は結婚しない。
いま、そう決めた。
それは、一つの命を預かっている私の決意で、そのことをロンの重荷にしてはならない。
ロンに構わずに、ひとりでそんなことを考えていると、肩が重くなる。
気持ち的にではなく、物理的に。
横を見ると、ロンが私の肩の上に頭を乗せていた。
上目遣いじゃない、いつもの真ん丸な目で。
“ごめんね”
もう一度、そう言おうとした瞬間、ロンの下が私の口を塞ぐ。
ぺろぺろと顔じゅうを舐めまわす。
“ありがとう。ゆるしてくれるんだね”
そして、ロンはいつまでも私の顔を舐めまわし、息が苦しくなった私を結局お母さんが助けてくれた。





