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里沙ちゃんの結婚⑰

「ごめんね、待たせちゃって」


「いいよ、鮎沢には罪はない」


 中学の修学旅行を思い出す。

 あの時は里沙ちゃんに、わざと置いてけぼりにされて江角君が待っていてくれた。

 そして今日は足立先輩に……。


「中学の時と一緒だな」


 江角君も気が付いていた。

 あの時は二人でタクシーに乗って旅館に帰った。

 運転手さんが居たから、車の中では何も話さなかった。


「帰ろうか」


「うん」


 今日は、江角君の車。

 ロビーを出て、駐車場に向かう。

 あの時と同じで、歩きながら何も話さない。

 ドアが開き、助手席に乗り、エンジンが掛かる。

 青葉の中を車はすいすいと抜けてゆく。

 日が西に傾いて眩しい。


「立木(里沙ちゃんの旧姓)幸せそうだったな」


「うん」


 里沙ちゃんの名前を出されると、忘れかけていた寂しさが込み上げてくる。

 遠く、会えない所に行ったわけではないのに、何故か遠くに行ったような気がした。

 心の中で組み上げていたジグソーパズルのピースが抜き取られた。

 そんな感じ。

 幸せになってほしいと思いながらも、損失感が半端なくて、いつの間にか涙が零れ落ちていた。


「大丈夫か?」


「うん」


 車が道を逸れて、河原に入って止まり車を降りた。

 いつも練習していた河原。

 目の前に、小高い丘が見える。

 ロンと散歩していた時、サックスを練習している音に誘われるように近づいて行き、この丘の向こうで里沙ちゃんが練習していた。

 あの日と同じように、丘を駆け上がってみた。

 もしかしたら、丘の向こうで私に気が付いて照れ笑いをしている里沙ちゃんが居るのではないだろうかと思った。

 だけど、そこには誰もいない。

 ただ、草の生えた地面が見えるだけ。

 私の後に着いて、江角君がゆっくりと丘を登ってくる。

 横に並んだ江角君は、遠くの空に出始めた夕焼けを眺めていた。


「あのね、むかしこの丘の下で、里沙ちゃんがサックスを練習していたの」


「そう」


 頷いてくれたけれど、顔は夕焼けを見たまま。


「立木……」


「えっ?」


「立木は今、鮎沢と同じ思いを胸にして、この夕焼けを見ている気がする」

 そうだ、空は続いている。

 江角君の言う通り、里沙ちゃんは屹度この夕陽を見ているに違いない。

 茂山さんと一緒に。 



 私の隣には江角君。





 そして、里沙ちゃんと、私の思いは一緒。


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