里沙ちゃんの結婚⑯
慌ててロビーに行くと、江角君はソファーに腰掛けて、まるで考え事をするように腕組みをして目を閉じていた。
考え事?
それとも、待ちくたびれて、眠ってしまったの?
もしくは、疲れた目を休めているの?
いずれにしても、パタパタと音を立てながら近づいて行くのはよくないと思い、なるべく音を立てずに隣に座った。
隣に座ってもピクリとも動かないし、気も付いてくれない。
これはおそらく、考え事というよりは寝ている。
んっ、そういえば江角君の寝顔って、見るの初めてかも……。
そう思うとなんだかドキドキしてくる。
日本人にしてはわりと堀の深い顔。
その割に頬骨があまり出ていないから、鼻筋の通った高い鼻と組み合わせて、なんとなくハーフっぽく、そして大人びて見える。
眼もとの、長いまつ毛が逆に可愛らしくて子供っぽい。
兄に比べると、少し薄い肩。
兄に比べて、白い肌。
そして兄と同じくらい背が高くて、足が長くて、クールで優しい。
あれ?私ひょっとしてブラコン?
ううん違うと思う。
だって兄に美樹さんと言う恋人が出来たとき、なんとも思わなかったもの。
それより美樹さんがロンに、ちょっかいを出すんじゃないかと心配していたから、どちらかと言うとアニコンかな?
私が隣に座って、まじまじ見つめているというのに江角君ときたら起きる気配がない。
ひょっとして、変なおばあさんに勧められてリンゴでも食べたの?
そう思うと、急に周りが気になった。
キョロキョロと辺りを見渡すと、周りには誰もいない。
別にリンゴを持って来たお婆さんを探しているわけではなくて、私の考えていることは、そのあとのこと。
ちょうど、植え込みの陰でフロントからも見られない。
体を深く折りたたんで、江角君の顔を下から覗き込むように首を伸ばす。
そして、唇を尖らせて、そーっと近づく。
だって、リンゴの毒で眠らされた白雪姫を目覚めさせるには、王子様のキスが必要でしょ。
王子とお姫様は逆転しているけれど、同じ事よ、屹度……。
唇を近づけて行くと、江角君の呼吸が止まっていることに気が付いた。
“もしかしてサスペンス!?”
細く瞑りかけていた目を開くと、いつの間にか江角君の瞳が開いていて優しく私を捉えていた。
「いつから?」
「たった今」
そう言うと、江角君は長い腕を私の背中に回して支え、キスをしてくれた。





