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里沙ちゃんの結婚⑭

 里沙ちゃんと、ずっと話をしていた。

 初めて会った時から、今日の、そして今のことまで。

 それでも、あんまり長居すると茂山さんが一人で困るだろうし、里沙ちゃんも私の帰りが遅くなることを心配して、お互いに後ろ髪を引かれる思いでレストランを出た。


「あー今日は酔っちゃった」


 誰もいない展望室のようなところで、里沙ちゃんが両手を伸ばして背伸びしながら言った。

 そういえば新郎新婦は祝杯を断れないから、だいぶ飲んだんだろうなと思う。

 お酒が飲めない私なら、即ダウン間違いない。

 外の景色がよく見えるベンチに腰掛けた。

 ちょうど植木で囲まれて、隔離されたようなプライベートな空間を醸し出すベンチ。

 きっと結婚式を終えたカップルが、このベンチに腰掛けて式の余韻に浸るのだろう。

 不意に里沙ちゃんが、私の手を握る。

 私の手より少し逞しい、なんでも出来ちゃう活発な手。

 里沙ちゃんは、千春の手って細くて柔らかいと言ってくれたあと“私ね、本当は千春のこと狙っていたんだよ”と意味不明なことを言いだした。


「百合とかじゃなくて、チャンとした男の子として千春のこと好きになりたかった」


「えっ、ちょっと待って。話が見えない。だって私たちは百合じゃぁないし、里沙は男の子でもないでしょ」


「そう。だから困るのよ。いっそ、どちらかだったら良かったのに、千春も私も健全そのものなんだもん……」


 言葉の最後の部分の呂律が、いつものハッキリとした話し方じゃなくて、甘く幼い。

 沢山お酒飲んだから、酔いが回ってきたのかなと思って顔を覗き込むと、里沙ちゃんも私の顔をじっと見ていた。

 目が座っている。

 そして、さっきまで私の手を握っていた里沙ちゃんの手が、スルスルっと上に上がってきて私の頬を撫でる。


「うふっ。可愛い」


「なに?里沙、酔っているの?」


「うん。酔っている。それもベロンベロンに。うふふ、だから今の私はいつもの里沙ちゃんじゃない。いつもの里沙ちゃんより正直者の里沙ちゃん」


 ほとんどお酒を飲んだことがないから分からないけれど、さっきレストランで一緒にパフェを食べていた時は、シッカリしたいつもの里沙ちゃんだったのに、ここに来たトタンの急変に戸惑う。


「ねぇ~千春ぅ。私たちキスしましょ。だってぇ、こんなに仲良しなのに一度もキスしたことないなんておかしいでしょ」


“いやいや、おかしくないし。女の子同士だから、キスしないのは当たり前でしょ”


「ねえぇ千春ったらぁ~♡」


 やっぱ、お嫁さんになる人は違う。

 すごいお色気で迫ってくる。


「ねぇったら、ねぇ」


 そんなに迫られても、キスなんて出来ない。

 だけど、里沙ちゃんに恥をかかすこともできない。

 困ってキョロキョロしているところへ、ちょうど兄夫婦とエレベーターを上がってきた茂山さんが目に映った。

 向こうは未だ気が付いていない。


“このタイミングなら”


 そう思って、私は逆に里沙ちゃんの頬を両手で包みこんだ。

 トロントしていた里沙ちゃんの目が、一瞬ハッキリと開かれ、そして閉じる。


「私たちの友情と、里沙と茂山さんの愛情が、いつまでも続きますように。里沙も言って。

 素直に里沙ちゃんが復唱する。


「私たちの友情と、私と茂山さんとの愛情が、いつまでも続きますように」


 そして、私は「おまじない」と言って、里沙ちゃんの“ほっぺ”にキスをした。

 案の定、里沙ちゃんが軽く驚いた拍子に、茂山さんが私たちのことを見つけてくれた。


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