里沙ちゃんの結婚⑩
中に入ると、もう一人茂山さんの大学時代の友達がスピーチを始めた所だった。
ロンの散歩に出てナカナカ戻って来ない妹のために、時間を伸ばしてくれたに違いない。
兄と目が合う。
“やっぱり”
このくらいでは兄は怒らない。
結構クール。
だけど、気を使わせてしまったのでコクっとお辞儀をすると、兄は目で“ガンバレ”と労ってくれた。
急いで演奏準備に取り掛かる。
そしてスピーチも意外に早く終わった。
茂山さんの大学時代の友達という事は、兄にとっても友達なので、屹度話の短い人をワザと選んだのだと思う。
「さあ、それでは新婦のお色直しも出来上がり、会場の前で待っていますので大きな拍手を持って迎えましょう。新婦入場です!」
私たちは淡いイエローのドレスを纏った里沙ちゃんを『マーチ・シャイニングロード』で出迎えた。
この曲は、私たちが高校三年のとき吹奏楽コンクール全国大会用に県大会、東関東大会を戦って三年連続全国大会出場を決めた曲。
東関東大会で全国の切符を掴み取ったとき、違う高校で一緒に出場していた伊藤君や福田さんに、どれだけ練習したのかと聞かれたとき里沙ちゃんが言った言葉を思い出す。
“練習とプライベートの境界線が麻痺してしまうくらい練習したよ”
そう、この曲の時は甲本君のゲリラライブを切掛けにして、私たちも毎週どこかでコンサートをして本番度胸を鍛えていた時期で、夢の中でも練習してしまう程だった。
残念ながら全国大会本番では、金賞を取るためによりグレードの高い『アークエンジェルス』に変更したけれど、短時間でそれが出来たのもこの曲での練習があったからこそ。
この曲では江角君もあの頃と同じように、トロンボーンを演奏している。
懐かしぃ調べに、あの頃のことを思い出す。
ハンター坂で行ったコンサートで、里沙ちゃんは珍しく泣いてしまい演奏できなかった。代わりに車を出してくれていた茂山さんが里沙ちゃんのサックスを使って演奏した。
屹度、里沙ちゃんも思い出しているだろう。
あの頃のことを沢山、そして前向きな里沙ちゃんだからこれからのことも。
***参考***
東関東大会で、伊藤君と福田さんの質問に答える里沙ちゃん
『最高の輝きに向かって①』https://ncode.syosetu.com/n9464ec/398/
ハンター坂のコンサートで泣いてしまった里沙ちゃん
『コンサート⑨』https://ncode.syosetu.com/n9464ec/385/





