里沙ちゃんの結婚⑧
結婚式当日は、楽器の調整とかが有るのと、受付をするため早く家を出ることにした。
足立先輩のワンボックスにロンと乗り込むと、今日はラッキーが居ない。
犬同伴OKなのだから連れて行っても良いけれど、足立先輩が遠慮した。
そして瑞希先輩も。
何だか私一人がロンを連れていて恥ずかしいけれど、実はロンには新郎新婦に花束を届けるという役割があるので、頑張ってもらわないといけない。
足立先輩も瑞希先輩も、ロンが無事にその大役を果たせるように、ラッキーとマリーを連れてこなかったのだと思う。
会場に着くと、受付にはもう堀江君と加奈子とさくら、それに中学のソフトボール部時代の同級生と茂山さんの同級生が来ていた。
「やあ、千春ちゃん久し振り。大きくなったね」
茂山さんの同級生からは、一年前の兄の結婚式でも同じことを言われたのに、まだ私の印象は中一の時のスキーに連れて行ってもらった時のままらしくて可笑しかった。
「楽器の準備が出来たら行くから」
加奈子たちにそう伝えて、受付を済ませ、ロンを預けて足早に会場に入った。
そして全員の音合わせを済ませて、受付に行く。
「先輩、ここは僕たちに任せてゆっくりしていて下さい」
「ありがとう。でも里沙の結婚式だから、はりきらせて」
堀江君の申し出を断る。
そう、大好きな里沙ちゃんの結婚式。
一瞬でも無駄な時間を作りたくはなかった。
ロンもキチンとお座りをしたまま頑張ってくれている。
受付を終えて、一旦ロンを散歩に連れて行き、再び会場に戻り、リードを加奈子に預けた。「ごめんね」「ハイ、任せて下さい」
そして楽団の列に戻るとき、正面に向かって歩いてきた兄と並んだ。
なんの用だろうと思って顔を見上げると「頑張れよ!」と、私の肩をポンと軽く叩いて、ステージの手前まで歩いて行った。
そして、司会者用のマイクのスイッチを入れ、音の確認をしていた。
悪戯をするような兄ではない、だから私の斜め後ろでコーラスの練習をしている美樹さんを振り返ると“うん”と目で答えてくれた。
なんと今日の司会は、あのクールな兄!
そんなこと兄も美樹さんも、一言も教えてくれなかったから、当日サプライズを掛けられた感じ。
ナカナカ“里沙ちゃん茂山連合”もやるではないか……、でもこっちの方が凄いわよ!
「そろそろ、始まりの時間となります。御出席者の方は御着席下さい」
兄がマイクで式の始まりが近い事を知らせる。
これまでエンドレスで演奏していたヘンデルの『水上の音楽』を静かに止める。
そして出席者の人たちが席に着く。
「皆様大変お待たせいたしました、それではこれより新郎茂山明ならびに新婦立木里沙、二人の結婚の儀と披露宴を行いたいと思います」
兄がチラッと指揮をする住之江部長に目で合図を送る。
部長の指揮棒が高く上がった。
兄の声が高らかに告げる。
「新郎新婦、入場です!」





