里沙ちゃんの結婚⑦
携帯が鳴る。
誰からだろうと見ると、里沙ちゃんから。
「もしもし、どうしたの?」
結婚式前日で忙しいだろうから、どうしたのかと思って聞いた。
「千春。いま散歩中?」
「うん」
「いま、大丈夫?」
「大丈夫よ、いまベンチに腰掛けて休憩中だから」
そう答えるのが分かっていたみたいに、電話の向こうでクスッと笑う声が聞こえた。
「いま、夜空を見ていたでしょう」
「うん。なんで分かったの?」
「フフフやっぱり。だってアークトゥルスが瞬いていたから、屹度私のこと想ってくれているんだろうなって」
アークトゥルスは、うしかい座で最も明るい恒星。ちょうど北斗七生の柄杓の柄の部分をその緩やかなカーブに沿って伸ばした先にある最も明るい星。
北斗七生からアークトゥルスを通ってスピカまでを繋ぐ曲線を、春の大曲線と言う。
「式前だから忙しいでしょ」
「うーん、そうでもないよ。だって服も着させてもらうし、お化粧もしてもらうから、まあ一日着せ替え人形になる様なもんだよ。お父さんとお母さんは忙しいみたいよ、親戚の人達が来るから。それより千春の方が準備に忙しかったんじゃないの?」
「正直、忙しかったわよ。びっくりするほど凄いの聴かせてあげるんだから、覚悟しときなさい」
「ブーッ、残念でした。私、千春と違って感動屋さんじゃなくてクールですから泣きませんよーだ!」
お互いに他愛もない話を、ズット続けていた。
いつの間にかロンがベンチの上に昇って来ていて、体を寄せてまるで私の体が冷えるのを気遣ってくれているみたい。
それに頭を膝の上に乗せて、まるで里沙ちゃんの声を聴いているみたい。
屹度、その両方なのだ。
電話で話しながら、ロンの頭をナデナデしていた。
「千春、本当に今までありがとうね」
「ううん、こちらこそだよ」
「チョッとロンに代ってもらえる?どうせ膝の上でお互い甘えているんでしょ」
「正解」そう言って、ロンの耳元に携帯を添えてあげる。
ロンは里沙ちゃんの言葉を、どう思って聞いているのか分からないけれど、口を開いて嬉しそうに聞いている気がした。





