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里沙ちゃんの結婚③

「千春ってさぁ、海とか空とか星とか好きじゃない。何で?」


「なんでって、そんなの分からないよ。里沙だって好きでしょ?」


「それは好きで、一瞬は見るけれど、千春のように長くは見ないよ」


「ニライカナイかも知れない」


「ニライカナイ?」


 遥か遠い海の彼方に存在するという神の国、ニライカナイ。

 人の魂はここで生まれ、この世の命が終わるとまたここへ帰るという沖縄の古い言い伝え。


「私ね、変かも知れないけれど、この話を信じているの。もちろんそれはニライカナイじゃないかも知れない。でも私たちは、私たちの想像も及ばない遠い彼方からこの世にやってきて、その命が終わるとまたそこに帰ると思っている。だから知らず知らずのうちに遠い彼方を見ているのだと思う」


「……それって、帰る場所を探しているってこと?」


 珍しく里沙ちゃんが神妙な面持ちで私の顔を覗く。

 私は遠くを見つめたまま明るく答える。


「ううん。屹度向こうから、私が忘れてしまっている誰かが、私の事を見ているのかなぁと思って」


「忘れてしまっている誰か……」


「そう。それは昔亡くなったご先祖様だったり、この時代に生まれて来る前の世界で関りを持った人や動物かも知れないし、これから生まれてきて出会う命かも知れない」


「そっか。じゃあ私もその人に“よぉ~く見てもらわなくちゃ”」


「ん!?」


 里沙ちゃんを振り返って見ると、明るく楽しそうに遠くの空を見つめていた。

 伸ばし始めたショートカットの髪が海風になびく。

 初めて会った中一の時から変わらない、明るくてさっぱりしたその性格を映し出す横顔。


「ねえ千春、向こうからも私の事屹度見ていてくれるよね」


「誰が?」


「これから、結婚して生まれてくる赤ちゃん」


 そうか、結婚したら赤ちゃんができて、お母さんになるんだ。

 里沙ちゃんも茂山さんも、楽しい事が好きな明るい人だから、空の彼方から見ている赤ちゃんも屹度ワクワクして見ているに違いない。


「屹度、二人の幸せな姿をみて、早く合いたいって言っていると思うよ」


「ありがとう」


 暖かな日差しを受け、いつまでも二人、遠くの空を見ていた。


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