里沙ちゃんの結婚②
お店を出て、海沿いに歩く。
話ながら、よこはまコスモワールドの横を通る。
「わーっ!今日も賑やかだねー」
大きな観覧車の横から、満員のお客さんを乗せたジェットコースターが凄い勢いで滑り降りてくる。
そしてキャーと言う歓声は、水しぶきと共に池の中へ吸い込まれて静かになった。
「これって、いったいどうなっているの?」
「千春、乗ったことないの?」
前に八景島でも江角君に言われたけれど、私はロンとズット一緒に居たいから遊園地とかには縁がない。
直ぐにまた後ろからキャーと言う声が聞こえて振り向くと「この通り!」と里沙ちゃんがニコっと笑顔で応えてくれた。
「乗っている人たち合羽とか着ていなかったけれど、大丈夫なのかなぁ」
「大丈夫よ、一瞬噴水が上がるだけだから」
噴水……。
そうか、水しぶきじゃなくて噴水なんだ。
「あーっ!もしかして千春。ジェットコースターが、そのまま池の中に入っているって思っていた?!」
「まっ、まさか」
慌てて否定したけれど本当は、そう思っていた。
「御免、御免。いくら何でも、さすがにそれはないか。あのスピードで水の中に突っ込んじゃったら水圧で死んじゃうものね」
「そうか、トンネルだ!」
急に気が付いてポンと手を打ってしまい、里沙ちゃんに変な目で見られた。
海の見える公園のベンチに座る。
ベンチと言っても、何だか小さな観客席みたいに階段状になっていて、プチコンサートか開かれたりするのかなって思った。
海からの風が気持ちいい。
「ねぇ、初めて私に打ち明けてくれたときのこと覚えている?」
「う~ん、いつだろう。初めて行った山の上のキャンプ場の時かなぁ」
「違うよ、山の上のキャンプ場の時は、ただ茂山さんに無理言って乗せて来てもらったとしか言わなくて、好きとか付き合っているとか教えてくれなかったもの」
「じゃあ、そのあと?」
「その前よ。丁度今時分、京都へ修学旅行に行ったとき」
「あっ!思い出した。お風呂の中!」
「ピンポーン♪」
「あの時は、お店に遊びに行って片思いだと思っていたんだよなぁ。歳も離れていたし、凄く不安だったなあ」
青い空に、まるでぶら下るように海鳥がひらひらと舞い、そして鳴く。
川崎の工業地帯から出港した貨物船が、沖を目指して音もなく流れて行く。
その手前をポンポンと軽快な音を立てて、スイスイ進むボート。
高い空には飛行機が青いキャンパスに優雅に白い線を引く。
「あの時は、ありがとう。千春が言ってくれた言葉が支えになったよ」
「あら、私何言ったっけ?」
“似たような感性を持っているはずの好きな相手なら、同じような景色を見て同じように感じるはず。遠く離れていても、お互いにこの同じ景色を見ることにより思いが通じる。空もそう。星もそう。同じものを見て、それが鏡の役割をして思いを相手に伝えるの”
「って言った。確か私たちが見ていたのは月だったよ。その事を後で茂山さんに話したら、やっぱりその時間に同じ月を見ていて、私と同じことを考えていて、そこからキチンと交際するようになったのよ」
良かった。
私も、たまには良いこと言うじゃん。
「それにしても、どこで打ち明けたか忘れていて、よく私の言ったことだけ鮮明に覚えていたね」
「あら、千春だって。自分の言ったこと忘れていたくせに、よく私が打ち明けた場所を覚えていたね」
お互いにそう言いあって顔を見合わせて笑った。





