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春は、あけぼの⑪

“やっぱり、マズいのかな……”


 心配しながら、二人を見ていると、マリーとラッキーもロンと私の傍に来て二人を見ていた。


「や、やぁ!トロンボーンも出来るんですね。しかもかなり上手い。もしかして、こっちのほうが長いんじゃないですか?」


「はい。トロンバーンは子供のころから高校までやっていました。今日は鮎沢のリクエストで久し振りに演奏しました」


「ヴ、ヴァイオリンも?」


「ヴァイオリンは、高校から練習を始めて、これからはこっちでやって行きたいと思っていますが駄目ですか?」


「いや、ヴァイオリンもナカナカの物ですよ。なにしろ入部テストに合格したんだから充分です。……でも、何故トロンボーンからヴァイオリンに?」


「それは、楽器の相性です」


「相性?」


 住之江部長が不思議な顔をして、聞いた。


「オーボエとの相性は、断然ヴァイオリンの方が良いから」


「あー、なるほど」


 そう言うと一瞬私の方を振り返った。

 ドキッとした。

 また、暗いソワソワした顔に戻ってしまっているのかと思った。

 けれども、その表情は全く逆で明るかった。


「なるほど、上達の秘訣が分かりました。それにしてもよく短期間であれほど演奏できるなんて、ひょっとしたらヴァイオリンの方が合っているのかも知れません。これからも頑張って下さい」


 いつの間にか、住之江部長の言葉から“どもる”癖が消えていた。


「ところで、こちらは?」


「F女学院の青山京子です」


「あーっ。どうりで凄いはずだ。音楽科で個人レッスンを受けていますね」


「分かりますか?」


「分かりますよ。江角君と同じように凄い上手いけれど、貴女の演奏にはこれから先、更に殻を抜け出そうと言う意気込みを感じましたから。……いま、部活は?」


「……していません」


「じゃあ、うちのオーケストラに来ませんか?うちは他所の大学でも大歓迎ですから、考えてみて下さい」


「はい」


 やっぱり、この人は音楽が好きなのだ。

 そしてこの開放的な場所が、それを自然に外へと(いざな)う。

 そう。春の野にタンポポの綿毛が空に飛び立つように。

 それから住之江部長は、一人一人の音を満足気に聞いて回った。

 瑞希先輩のフルートもマッサンのピッコロも、足立先輩のオーボエ、今川さんのホルン、宮崎君のトランペットなど集まった皆に良いところを褒めてくれて嬉しかった。

 里沙ちゃんのサックスも気に言ってくれたけど、もう直ぐ結婚すると聞いて残念がってくれた。

 その中でも一番驚いていたのは甲本君と高橋さんの電子ドラム。

 特に甲本君の方はプロ以上だと褒めまくっていた。

 今迄のソワソワしたイメージは消えて、実に楽しそうで堂々として見えた。

 一通りみんなの音を聞いて回った住之江部長にお願いした。

 指揮をしてもらえないかと。


「えっ。ぼ、僕がですか?っって、ぼ、僕で良いんですか?」


「はい、是非。ある意味、そのために皆ここに集まりました」


「わ、分かりました。で、では頑張ってみます」


 青い空にヴィヴァルディ‐の春がフワフワとタンポポの綿毛のよう舞い上がって行った。


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